Exchange Queue & A: 移行

多くの企業では今も Exchange Server 2003 を使用しているようです。コスト効率は良いかもしれませんが、互換性に関する問題が発生することがあります。

Henrik Walther

共有の予定表

Q. Exchange Server 2003 から Exchange Server 2010 SP1 に移行したばかりです。社内では Outlook 2003 クライアントと Outlook 2007 クライアントが混在しています。Outlook 2003 で多数の共有の予定表を開いたユーザーから苦情がありました (一度に 15 個以上の予定表を開くことも珍しくありません)。Outlook 2003 で予定表を開こうとするとエラー メッセージが表示されることがあるそうです (図 1 参照)。

Outlook 2003 で 15 個以上の共有の予定表を開こうとすると表示されるエラー メッセージ

図 1 Outlook 2003 で 15 個以上の共有の予定表を開こうとすると表示されるエラー メッセージ

クライアントを Outlook 2007 にアップグレードすることなく、この問題を解決する方法をご存じありませんか。と言うのも、2011 年後半まで、Outlook 2003 クライアントをアップグレードすることができないからです。

A. この問題は、Exchange Server 2010 で導入された RPC (リモート プロシージャー コール) の調整ポリシー (具体的には、調整ポリシーの RCAMaxConcurrency パラメーター) によって発生します。ユーザーが Outlook 2003 を使用して 15 個以上の共有の予定表や追加のメールボックスを開く必要がある場合は、Set-ThrottlingPolicy コマンドレットを使用して RPC に関連する調整ポリシーの設定を調整できます。この場合は、RCAMaxConcurrency パラメーターの値を増やす必要があります (既定値は 20 です)。RCAMaxConcurrency パラメーターでは、Exchange Server 2010 を実行しているサーバーに対して一度に同時接続できる RPC クライアント アクセス ユーザーの数を指定します。

既定の調整ポリシーの RCAMaxConcurrency パラメーターの値を 20 から 30 に増やすには、Exchange 管理シェルを起動し、次のコマンドを実行して、調整ポリシー用の変数を作成します。

$a = Get-ThrottlingPolicy | where-object {$_.IsDefault -eq $true}

次に、この変数を Set-ThrottlingPolicy コマンドレットにパイプライン処理します。

$a | Set-ThrottlingPolicy -RCAMaxConcurrency 30

この変更を適用するには、各クライアント アクセス サーバー (CAS) で Microsoft Exchange Throttling サービスを再起動します。既定の設定よりも、確実に多くの共有の予定表や追加のメールボックスを開けるようになります (図 2 参照)。

RCAMaxConcurrency パラメーターの既定値を変更した後に Outlook 2003 を使用して 15 個の予定表を開いている状態

図 2 RCAMaxConcurrency パラメーターの既定値を変更した後に Outlook 2003 を使用して 15 個の予定表を開いている状態

Exchange Server 2010 SP1 の調整ポリシーの詳細については、TechNet で Exchange Server 2010 のドキュメントを参照してください。

Windows Phone のサポート

Q. 社内で Windows Phone 7 デバイスを配布することを検討しています。その前に、Windows Phone 7 デバイスで、Windows Mobile 6.x デバイスと同じ Exchange ActiveSync (EAS) ポリシーがサポートされているかどうかを知りたいと思っています。

A. マイクロソフトでは一般ユーザーを第一に考えて Windows Phone 7 を開発しましたが、Windows Phone チームは、大半のユーザーが Windows Phone 7 デバイスを個人的な用途と仕事の両方に使用することを想定して、OS にエンタープライズ機能を含める必要があることを理解していました。Windows Phone 7 の OS では、Exchange Server 2010 SP1 で提供されている次の EAS ポリシーのサブセットがサポートされています。

  • パスワードが必要
  • 最低限必要なパスワードの長さ
  • アイドル タイムアウトの間隔
  • デバイス ワイプのしきい値
  • 簡易パスワードを許可する
  • パスワードの有効期限
  • パスワード履歴
  • リムーバブル記憶域を無効にする
  • IrDA を無効にする
  • デスクトップの同期を無効にする
  • リモート デスクトップをブロックする
  • インターネット共有をブロックする

上記以外の EAS ポリシーを使用する場合は、次のオプションを使用できます。

  • Windows Phone 7 専用の EAS ポリシーを作成し、Windows Phone 7 デバイスを使用しているメールボックス ユーザーに関連付けます。
  • 構成済みの既定の EAS ポリシーの AllowNonProvisionableDevices プロパティを ture に設定します。
  • Exchange 組織内の既定の EAS ポリシーを再構成して、以前に構成していたポリシーのみが含まれるようにします。
  • Windows Phone 7 デバイスにサードパーティ製の EAS クライアントを展開します。

Exchange Server の共存

Q. 小規模な組織で働いていて、現在 Exchange Server 2003 から Exchange Server 2010 SP1 への移行を計画しています。Exchange Server 2003 を実行しているサーバーは 1 台しかありません。TechNet ライブラリの Exchange Server 2010 の記事「Exchange 2003 クライアント アクセスからのアップグレード」には、アップグレードのタスクとして、Exchange Server 2003 インフラストラクチャを従来のホスト名 (legacy.domain.com) と関連付ける必要があると記載されています。また、その後には、Exchange Server 2010 を実行している CAS で、次のコマンドを使用して Exchange Server 2003 を実行しているフロントエンド サーバーをポイントする Exchange Server 2003 の URL を構成する必要があるとも記載されています。

Set-OWAVirtualDirectory <CAS2010>\OWA* -Exchange2003URL https://legacy.contoso.com/exchange

このように構成すると、Exchange Server 2003 と Exchange Server 2010 が共存している間も、ユーザーはシングル サインオンでメール ボックスにアクセスできるそうです。社内には Exchange Server 2003 を実行しているサーバーは 1 台しかないので、この動作を実現する必要があります。ですが、この TechNet の記事では、Exchange Server 2003 の URL では、Exchange Server 2003 を実行しているフロントエンド サーバーをポイントする必要があると明記されています。これは Exchange Server 2003 を実行しているフロントエンド サーバーを導入しなければ、Exchange Server 2003 と Exchange Server 2010 を共存させられないということでしょうか。

A. 必ずしも Exchange Server 2003 を実行している専用のフロントエンド サーバーが必要というわけではありません。Exchange Server 2003 を実行しているサーバーが 1 台しかない場合は、Exchange Server 2010 を実行している CAS の Exchange Server 2003 の URL で Exchange Server 2003 を実行しているバックエンド サーバーを直接ポイントして何の問題もありません。ただし、シングル サインオンを実現するには、Exchange Server 2010 を実行している CAS と Exchange Server 2003 を実行しているバックエンド サーバーの両方でフォーム ベース認証を有効にする必要があることに注意してください (図 3 参照)。

Exchange Server 2003 でフォーム ベース認証を有効にする

図 3 Exchange Server 2003 でフォーム ベース認証を有効にする

また、Exchange Server 2003 を実行しているサーバーには、従来のホスト名 (legacy.domain.com) を含む SSL 証明書をインストールする必要があることにも注意してください。証明書の共通名でなくてもかまいません。Exchange Server 2010 で UC/SAN 証明書を使用している場合は、SAN の一覧に従来のホスト名を追加して、この証明書を Exchange Server 2003 で使用することもできます。

複数のゲートウェイを指定する

Q. 現在、Exchange Server 2010 SP1 を展開しているところです。2 つのデータセンターがあり、各データベース間でデータベース可用性グループ (DAG) を使用する予定です。また、各データセンターには、それぞれ 2 台の DAG メンバー サーバーを配置する予定です。各 DAG メンバー サーバーには 2 枚のネットワーク インターフェイスを搭載して (1 枚は MAPI アクセス用、もう 1 枚はレプリケーション用)、データセンターごとに異なるサブセットを設定します。

各サーバーでは、MAPI ネットワークのデフォルト ゲートウェイともう一方のデータセンターの DAG メンバーを指定しました。各サーバーは、構成した MAPI ネットワークの IP アドレスを使用して、もう一方のデータセンターの DAG メンバーにアクセスできます。ただし、レプリケーション ネットワークを使用して相互に接続できないという問題があります。この問題の原因は、レプリケーション ネットワークのデフォルト ゲートウェイを指定していないことにあると確信しています。レプリケーション インターフェイスの TCP/IPv4 のプロパティ ダイアログ ボックスでデフォルト ゲートウェイを指定しようとすると、図 4 のような警告メッセージが表示されます。

複数のデフォルト ゲートウェイを構成すると表示される警告メッセージ

図 4 複数のデフォルト ゲートウェイを構成すると表示される警告メッセージ

レプリケーション インターフェイスを構成する前に、DAG メンバー サーバーで複数のゲートウェイを指定する正しい方法を確認したいと思っています。

A. GUI を使用して複数のゲートウェイを構成する作業に取り掛かる前に確認していただいて良かったです。というのも、この方法で複数のゲートウェイを構成することはサポートされていません。このように構成すると、データセンター間でルーティングの問題が発生する原因となります。この場合は、レプリケーション ネットワーク インターフェイスのデフォルト ゲートウェイを指定する必要があります。

Exchange Server 2007 では、複数サイトにまたがって異なるサブセットのノードを伴うクラスタ連続レプリケーション (CCR) クラスターまたはシングル コピー クラスター (SCC) クラスターを展開するときには、Route Add コマンドを使用してデフォルト ゲートウェイを構成していました。Windows Server 2008 と Windows Server 2008 R2 では、このガイドが少し変更になりました。デフォルト ゲートウェイの構成には、Route Add ではなく Netsh コマンドの使用が推奨されるようになりました。

Exchange Server 2010 を実行している DAG メンバー サーバーを別のサブネットに配置している場合も Netsh コマンドを使用する必要があります。Netsh コマンドを使用して、別のデータセンターのレプリケーション サブネットの静的なルートを作成する必要があります。Route Add コマンドを使用して 10.10.10.0/24 サブネットから 10.10.11.0/24 サブネットまでの静的な固定ルートを作成するには、次のコマンドを使用します。

Route add 10.10.11.0 mask 255.255.255.0 10.10.10.203 –p

このコマンドでは、10.10.11.0/24 宛てのすべてのトラフィックをゲートウェイ 10.10.10.203 に送信します。その後、10.10.11.0/24 サブネットの各サーバーにトラフィックをルーティングします。Netsh コマンドを使用して同じ静的なルートを作成するには、次のコマンドを使用します。

Netsh interface ipv4 add route 10.10.11.0/24 "REPLICATION" 10.10.10.203

レプリケーション ネットワーク インターフェイスの名前は REPLICATION で、デフォルト ゲートウェイは 10.10.10.203 です。Netsh コマンドを使用すると、Route Add は固定ルートとして作成されます。

同時に移動できるメールボックスの数

Q. Exchange Server 2010 から Exchange Server 2010 SP1 にアップグレードしたばかりです。1 つの移動先のデータベースに付き一度に 2 つのメールボックスしか移動されない現象が発生していることに気付きました。Exchange Server 2010 の RTM 版では、一度に 5 つのメールボックスを移動できました。

そこで質問が 2 つあります。Exchange Server 2010 SP1 では、なぜ一度に移動できるメールボックスの数が変更されたのですか。また、この数は変更できますか。

A. ご指摘のとおり、Exchange Server 2010 SP1 では、1 つの移動先のメールボックス データベースに付き一度に移動できるメールボックスの数は 5 つから 2 つに変更されました。1 台の移動先のサーバーに付き一度に移動できるメールボックスの数は SP1 でも 5 つです。SP1 でも、複数の移動先のメールボックス データベースにユーザーを移動している場合は、1 台の移動先のメールボックス サーバーに付き最大 5 つのメールボックスを移動できます。

Exchange 製品グループが社内で実施したテストによると、1 つの移動先のメールボックスに対して一度に 5 つのメールボックスを移動できるようにすると負荷が高くなりすぎることが判明しました。これは、DAG のメンバーになっているメールボックス サーバーに大きなメールボックスを移動したときに顕著に現れました。

この設定の値は、ニーズと環境に応じて調整できます。DAG を使用していて、大きなメールボックスを移動するときには、この値は 5 のままにしておくことをお勧めします。ただし、メールボックスが小さい場合やスタンドアロンの Exchange Server 2010 メールボックス サーバーを使用している場合は、移動先のメールボックス データベースの値を最大 10、移動先のメールボックス サーバーの値を最大 40 まで上げることができます。

この値を変更するには、Exchange Server 2010 を実行している CAS にログオンして、メモ帳で MSExchangeMailboxReplication.exe.config ファイルを開きます (図 5 参照)。

メモ帳で MSExchangeMailboxReplication.exe.config ファイルを開く

図 5 メモ帳で MSExchangeMailboxReplication.exe.config ファイルを開く

ファイルを開いたら、MaxActiveMovesPerTargetMDB と MacActiveMovesPerTargetServer の値を変更します (図 6 参照)。

Exchange Server 2010 SP1 の MaxActiveMovesPerTargetMDB と MaxActiveMovesPerTargetServer の既定値

図 6 Exchange Server 2010 SP1 の MaxActiveMovesPerTargetMDB と MaxActiveMovesPerTargetServer の既定値

これらの値を変更したら、Microsoft Exchange Mailbox Replication サービスを再起動して変更を反映します。組織に Exchange Server 2010 を実行している CAS サーバーを複数配置している場合は、すべての CAS サーバーで、上記の手順を実行する必要があります。

Henrik Walther に電子メールを送る (英語のみ)

Henrik Walther は、マイクロソフト認定資格を持つ専門家です。IT ビジネスの分野で 15 年以上の経験がある、Exchange Server 2007 および Exchange Server MVP です。Timengo Consulting (デンマークを拠点とするマイクロソフト認定ゴールド パートナー) でテクノロジ アーキテクトを、Biblioso Corp. (ドキュメント管理とローカライズ サービスを専門とする米国の企業) でテクニカル ライターを務めています。連絡先は、v-henwal@microsoft.com (英語のみ) です。

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