Windows 秘話: 1 つ上のフォルダーへ移動する操作の動乱の歴史
1 つ前に参照していたフォルダー、ディレクトリ、またはパスに戻るという単純な操作は、皆さんが想像するよりも混乱を招きやすいものです。
親フォルダーに移動するのは、どれくらい難しいことでしょうか。Windows 1.0 と Windows 2.0 では、ファイルの管理に MS-DOS Executive を使用する必要がありました。このプログラムを使用すると、BackSpace キーを押すことで親ディレクトリに移動できました (当時は仮想フォルダーという概念がなかったため、フォルダーではなくディレクトリと呼ばれていました)。
Windows 3.0 では、MS-DOS Executive の後継としてファイル マネージャーが導入されました。ファイル マネージャーでは、ディレクトリの一覧の先頭に表示されている [..] という項目をクリックすると、親ディレクトリに移動できました。
この "ファイルに見せかけたコマンド" は、Windows 95 の初期のエクスプローラーでも引き続き採用されました。各フォルダーには、"1 つ上のフォルダーへ" のような名前が付いた項目がありました。この項目をダブルクリックすると、画面が切り替わりました。ですが、設計者は、この動作に違和感を感じて、この項目をツール バーのボタンに変更しました。BackSpace キーを使用したキーボード ショートカットは、ファイル マネージャの遺物として残りました。
その後、長年にわたって、1 つ上のフォルダーへ移動する操作は、このような状態でした。
Windows Vista では、エクスプローラーのフレーム ウィンドウが再設計され、移動に関して多くの変更が施されました。その結果、1 つ上のフォルダーへ移動するボタンの機能は、階層リンク スタイルのアドレス バーの機能と重複することになりました。アドレス バーのフォルダー名をクリックするだけ親フォルダー (または他のフォルダー) に移動できるようになりました。
エクスプローラーには "進む" ボタンと "戻る" ボタンが配置されたので、Backspace キーを使用したキーボード ショートカットは、Internet Explorer との一貫性を確保するため、再び "戻る" ボタンに割り当てられました。戻る場所がなければ、"1 つ上のフォルダーへ" をクリックしたときと同じように動作しました。一方、Alt + Up キーというキーの組み合わせが、"1 つ上のフォルダーへ" ボタンに割り当てられました。
UI の冗長性を緩和するのは、単に強制的にやらざるを得ない処理だからではありません。同じ処理を実行するわかりやすい方法が複数存在すると、ユーザーに混乱を引き起こすことが調査で明らかになっています。ユーザーは、同じ処理を実行する 2 つの方法を目の当たりにすると、何か問題があるに違いないと考えるか、少なくとも 2 つのオプションにはなんらかの違いがあると考えます。
多くの場合、結果として次のような会話が交わされます。
「1 つ上のフォルダーに移動する場合、"1 つ上のフォルダーへ" ボタンをクリックすべきですか。それとも、アドレス バーのフォルダー名をクリックすべきですか」
「どちらでも問題ありません。お好みの方法を実行してください」
「ですが、どちらの方法を使用すればよいのでしょうか」
「どちらでも便利だと思う方法を使ってください」
「それでは答えになっていません。どちらの方法を使用すればよいのでしょうか。どちらの方法を使うかを答えてください。そうすれば、そちらの方法を使用します。操作を実行する方法が 2 つありますが、間違った方を使用したくないのです。この 2 つの方法には違いがあるに決まっています。そうでなければ、どうしてオプションが 2 つあるのでしょうか」
この主張はもっともです。まるで、システムで [はい]、[はい]、および [いいえ] という 3 つのオプションが配置されたダイアログ ボックスが表示されたときのような反応です。
確かに、2 つの [はい] というオプションには、なんらかの違いがあるはずです。そうでなければ、同じ結果を導くのに、2 つの個別のオプションを用意する必要はありませんから。
"1 つ上のフォルダーへ" ボタンを使用している方のために説明すると、次のように表示されているアドレス バーのフォルダー名をクリックするだけで 1 つ上のフォルダーに移動できます。
1 ▶ Computer ▶ OS (C:) ▶ Windows ▶ Web ▶ Wallpaper
繰り返しますが、キーボード ショートカットは Alt + Up キーになります。
Windows 1.0 の話に戻りますが、MS-DOS Executive では、参照しているディレクトリのパスは静的なテキスト ボックスに表示されました。ただし、秘密が 1 つありました。この静的なテキスト ボックスをクリックする操作は、"ディレクトリを変更する" コマンドのショートカットでした。この操作を実行すると、移動先のディレクトリを入力するダイアログ ボックスが表示されました。
実は、秘密の機能がもう 1 つあって、この静的なテキスト ボックスは、ダイアログ ボックスの既定のコンテンツでした。カーネル チームに所属している同僚は、Windows Vista の新しいアドレス バーのデザインで 1985 年の機能が復活したことを知ると、大笑いしました。彼がその状況をお笑い草だと思った理由を知らない彼の同僚の目には、その姿はおかしく映ったことだと思います。
Raymond Chen は自分の Web サイト「The Old New Thing」および同じタイトルの書籍 (Addison-Wesley、2007 年) で、Windows の歴史、Win32 プログラミング、そして黒い粘着テープの幻の修復力について触れています。