何でも屋: インスタント クラウド - Office 365 の概念が実証されるとき

Office 365 は、さまざまな生産性とグループ作業の機能を備えているので、クラウド コンピューティングに移行しようとしている中小企業に最適な製品です。

Greg Shields

クラウド コンピューティングに対する中立的な意見はないように思えます。私が話をしたことがある人は「好きじゃないし、信頼できない」という立場を取る人と「とても気に入っていて、常に使用している」という立場を取る人に二分されます。私は後者の立場を取っています。この完全な二分化は、以前、友人がお寿司について「気に入るか、好きじゃないと言うなら、きちんと食べてみたことがないだけだ」と言っていたことを思い起こさせました。

クラウド コンピューティングに対する反応は、その人が所属している企業の規模に基づいて推測できると言っても過言ではありません。大企業に所属している人は、クラウド コンピューティングを信頼していませんが、中小企業に所属している人は、コスト削減の目的で、クラウド コンピューティングを採用することに意欲的です。

大企業に所属している人の反応は、多くの点においてうなずけます。と言うのも、大企業は、中小企業よりも、法規制、機密管理、社風に関する問題の影響を受けるからです。大企業で働いている IT プロフェッショナルは、クラウドに移行すると、環境を部分的にしか制御できないと感じます。その結果、クラウドは信頼できないという意見になり、最終的には「私にはクラウドは不要です」という結論に至ります。

この不信感は、中小企業で働いている IT プロフェッショナルのニーズと相反します。中小企業で働いている IT プロフェッショナルは、自分が制御できるかということよりも、機能していることを重視します。

これは、私は新しいクラウド ベースの Microsoft Office 365 プラットフォームに大きな期待を寄せている一因です。Office 365 には、大企業と中小企業のそれぞれを対象としたエディションがあります。Office 365 では、インターネットからアクセスできるインターフェイスに Micorosft Office 製品の生産性とグループ作業の機能を集約しました。また、完全にシームレスなパッケージに Microsoft Office、Exchange Server、SharePoint、および Lync がバンドルされています。

Office 365 とは

現在、数量限定でベータ版が公開されている Office 365 のデモを初めて見たときに、中小企業の経営者を対象とした機能を取り上げて欲しいと依頼されました (このコラムの主な対象読者が中小企業の経営者だからです)。これらの製品を適切に設計、インストール、および維持管理する場合に伴う煩雑さを考慮すると、Office 365 は、何でも屋である IT プロフェッショナルが切望していた命綱となります。

この命綱が、どのようなものになるかを説明しましょう。社内のあるチームで次のプロジェクトについて話し合いが必要な場合を考えてみてください。数通のメールをやり取りした結果、短時間のミーティングを行う必要があるという結論に達しました。Office 365 に組み込まれているプレゼンス機能により、メンバーのオンライン状況を確認できます。Outlook でメンバーの名前をクリックするだけで、インスタント メッセージを送信して、ミーティングに参加できるかどうかを確認できます。また、チーム全員がミーティングに参加する準備ができたら、メールのやり取りではなく、オンライン ミーティングという形で話し合いを進めることができます (図 1 参照)。

図 1 Office 365 を使用して Outlook から直接オンライン ミーティングを作成する

ミーティング中には、ビデオ チャットを使用して話し合いを進めながら、SharePoint に格納されている Office ドキュメントをメンバーが同時に編集できます。この際、チームでは、単に画面を共有するだけではなく、各チーム メンバーが同時にドキュメントを更新することができます (図 2 参照)。各メンバーは、リアル タイムでドキュメントに変更を反映し、他のメンバーは、ドキュメントが更新される状況をリアルタイムで確認できます。

図 2 Office 365 を使用してビデオ チャットをしながらドキュメントでグループ作業を行う

これだけではありません。中小企業では、グループ作業によるプロジェクトに常時従事しており、常にデータを共有する必要があります。Office 365 を使用すると、外部のユーザーに、SharePoint サイトでドキュメントをアップロードおよびダウンロードする権限を付与できます。また、リッチ テキスト ドキュメントを編集する権限を与えることも可能です。FTP や 100% の信頼の保証がないファイル共有 Web サイトを使用してデータを転送するという面倒な作業に対応してきた場合は、この機能が重宝するでしょう。

大企業にとってデータを失うことは大きな痛手ですが、中小企業にとっても、少なくとも大企業と同じくらい大きな痛手です。企業にとって重要なデータが保存されているラップトップ コンピューターを紛失したことが原因で、廃業した中小企業は 1 社だけではありません。同じ中小企業の苦しみを目の当たりにして来たので、Office 365 のシームレスかつ自動的に行われるバックアップと復元の機能はありがたく思っています。

Office 365 のデータ保護は、複数層に渡って行われています。削除したデータは、完全に削除されるのではなく、SharePoint のごみ箱に送られます。二次的な管理用のごみ箱によって削除のサイクルが延長されます。Outlook ユーザーは、"削除済みアイテム" フォルダーでも同レベルの保護を享受できます。削除してから 30 日以内であれば、削除したメールボックスも完全に復元できます。

Office 365 には、検索機能と法的な情報保管機能も用意されています。現在、数量限定で公開されているベータ版では、これらの機能は利用できませんが、製品版がリリースされるまでには、必要に応じてメールボックスを検索できるようになります。

シンプルなコントロール パネル (図 3 参照) を使用することで、不本意ながら中小企業で IT プロフェッショナルとして働いているユーザーは、いつもの煩雑さを回避しながら基本的な管理作業を簡単に行えます。ユーザー、メールボックス、および配布リストの作成方法と Exchange Server、SharePoint、および Lync の管理方法は、インターフェイスで公開されています。SharePoint に直接リンクされている WYSIWYG インターフェイスを使用して独自の Web サイトを作成することもできます。

図 3 Office 365 で管理サービスを管理する

シンプルさも Office 365 の売りですが、最大の長所は、そこに存在しないことです。これらの機能は、技術的に新しいものではありません。Exchange Server と SharePoint は、それぞれ長い間、完全な機能を備えたコラボレーション プラットフォームおよびドキュメント リポジトリとして使用され、Lync (旧称、Office Communications Server) は、リアル タイムのコミュニケーションが必要な場面で重宝されてきました。Office 356 の価値は、組み込まれている機能だけでなく、すべての機能が既に統合されているところにあります。この 3 つの大規模な製品を自分で連携しようとしたことがある場合、その作業を的確に行うには時間がかかり、経験が必要になることはご存じでしょう。通常、これらの製品を連携して 99.9% の稼働率を実現するには、外部の専門家に高いお金を支払ってサポートを依頼する必要があります。

決断を下す

デモンストレーションが終わった後、自分が経営している Concentrated Technology における概念実証に着手しました。当社は、国内全土に少数のユーザーを抱えている小さな分析会社です。一元管理する IT インフラストラクチャが少ないという点で、このサービスは、当社のニーズにぴったりだったので、私は Office 365 ベータ プログラムに申し込みました。

Office 365 を使い始めるには、人口統計データを用意したり、会社用の URL を作成したりする必要がありました。数量限定で公開されているベータ版の Web サイトは、microsoft.com のサブドメインに制限されていますが、製品版がリリースされるまでには、ドメインの移行機能が追加されるという話を聞いています。

サービスの初期設定には数分かかります。サービスの初期設定が完了するまでの間、インターフェイスの基本的な管理方法を紹介するクイック スタート ガイドを参照できます。Exchange Server の既存データは、一括またはメールボックス単位で移行できます。また、IMAP サーバーのメールを移行することもサポートされています。ただし、IMAP サーバーからの移行では、連絡先や予定表のエントリは自動的には移行されません。SharePoint のデータも移行できますが、移行処理を自動化するにはサードパーティ製のツールが必要です。

サービスの初期設定が完了したら、次は、ローカル デスクトップに Microsoft Office、Microsoft Online Services Connector、および Lync 2010 をインストールします。Office についてはご存じだと思うので、残りの 2 つについて説明しましょう。Microsoft Online Services Connector は、Microsoft Office の範囲をローカル デスクトップから Office 365 クラウド サービスに拡大します。Lync は、インスタント メッセージング、オーディオ、ビデオ、オンライン ミーティングなどのグループ作業機能を追加することで、Office 365 を補完します。すべての準備が整ったら、Android、iPhone、BlackBerry、および Windows Phone に対応した ActiveSync によって、モバイル デバイスがワークスペースに統合されます。

ただ今、数量限定で公開中

現在、Office 365 は、数量限定でベータ版が公開されています。つまり、マイクロソフトでは、バグを修正する必要があるので、Office 365 のサービスを使用するユーザーの数を制限しています。パブリック ベータ版は数か月以内に公開する予定です。

Office 365 は中小企業に打って付けのサービスですが、大企業が蚊帳の外に追いやられているわけではありません。マイクロソフトでは、25 人以上の従業員を抱える企業向けの製品として Enterprise Edition of Office 365 を開発しています。このエディションには、従来の Exchange Server、SharePoint、および Lync のエクスペリエンスに近い拡張機能が含まれています。

これらの製品を既に統合していて、許容できる稼働率で機能している場合は、クラウド サービスに移行する必要は、ほとんど感じないかもしれません。ですが、そうでない場合、Office 365 のようなクラウド サービスを使用すると、中小企業では、大企業が享受していたグループ作業のツールをすぐに利用できるようになります。それから、最も重要なことですが、すべてのことを制御できないかもしれませんが、問題なく機能します。

Greg Shields

Greg Shields (MVP) は、Concentrated Technology の共同経営者です。何でも屋である IT プロフェッショナル向けのヒントとテクニックについては、ConcentratedTech.com (英語) を参照してください。

補足記事: 取っておきのヒントをお知らせください

何でも屋 (JOAT) である Windows 管理者の方や、ネットワーク、サーバー、プリンター、およびその間に存在するあらゆるものを担当している方は、サーバーの正常な状態を維持するための便利なヒントとテクニックを確立していることと思います。ヒントやテクニックを共有することに興味がある方にお願いがあります。TechNet マガジンの「何でも屋」コラムを執筆している Greg Shields は、今後のコラムで紹介する優れたヒントを探しています。ぜひご協力ください。

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