ビジネスにおける IT行政機関における IT インフラストラクチャの価値を計算する

Acer Maamoun

行政諸機関における、ハードおよびソフト両面での IT インフラストラクチャへの投資メリットを実証することは容易ではありません。一般の大企業では、あらゆる追加や整備に対して経営陣がビジネス ケース (投資対効果検討書) を作成し、その他の資金調達要求との兼ね合いを取りながら優先順位が付けられます。

ビジネス ケースの設定方法は多岐にわたるため、IT マネージャは特定組織の事情に最も適したビジネス ケースを選択する必要があります。このことは行政機関についても同様です。IT を業務上の他の優先事項とうまく提携させることが重要です。行政部門においては、プロジェクトおよび政策のポートフォリオ構築手法に公共的価値の概念を取り入れることにより、IT 組織はビジネス ケースを明確に示すことに成功しています。

インフラストラクチャの改善がいかにして生産性やサービスの向上につながるかを実証するビジネス ケースを構築するのは、困難なプロセスです。IT インフラストラクチャの投資価値を定義および評価するソリューションについて、実際に行政の IT 組織で採用されているものを見ていきましょう。

投資の正当性を評価する

IT 組織の共通の悩みは、あまりにも多くの要求が、これまた非常に多くのさまざまな業務領域から出されることです。そして言うまでもなく、それぞれが緊急度の高い要求なのです。新しい政策は、個々の部門の規制に関する要求や、ミッションの優先事項に対応しているという傾向があります。これらの政策はランダムな組み合わせのように見えながら、実際には特定の部門が求めている公共的価値と密接に関係している場合がよくあります。

一方で、個別部門の運営を支援するために分配される運営コストによって、エンタープライズ規模の機能や共有サービスのコスト (および価値) が見えなくなることがあります。このような環境では、新しいインフラストラクチャへの投資価値、またはエンタープライズ規模で影響を与える、あるいは個別部門の目標に間接的に対応する、既存インフラストラクチャの改良に対する投資価値の適切な評価は非常に困難です。

このため、米国一般調達局による連邦政府エンタープライズ アーキテクチャ フレームワーク (GSA Federal Enterprise Architecture Framework) (whitehouse.gov/omb/egov/a-1-fea.html) (英語) に説明されているように、IT 組織はエンタープライズ規模での IT サポートが困難であると考えがちです。このような環境では、エンタープライズ アーキテクチャにおける共有された見解、共通のビジネス ケース開発モデル、およびポートフォリオ管理プロセスを採用した IT 投資の要望と支出の公平化に対するほとんどの取り組みは、実現が困難です。より効率的なモデルは、公共的価値のメリットを効果的かつ最大限に引き出す活動をサポートすることです。この場合、共通の公共的価値基準を選択し、ビジネス ケース開発、ポートフォリオ管理、メリットの実現、および評価のプロセス全体に対して適用する必要があります。

価値を測定する

実際にエンタープライズ規模の IT 投資には、いくつかの実質的な問題があります。第一に、公共的価値のメリットに関する影響は間接的かつ長期的です。これらのメリットは、組織の部分ごとに不均衡に発生することが多く、必ずしも容易に特定できるわけではありません。そのうえ、関連するリスクやコストの方が、視覚的に定量化するのが難しい公共的価値よりもずっと認識されやすいのです。

インフラストラクチャ投資により、将来の投資および現在の活動をどのように達成できるかに基づいて、ビジネス ケースを作成する必要があります。この価値を計算する方法は複数ありますが、どれにも長所と短所があり、それぞれに特定の組織の事情や成熟度に対する適合性が異なります。

数学的モデル これらのメソッドは、潜在的なメリットの数学的モデリングに基づいています。1 つの効果的なメソッドは「リアル オプション」と呼ばれ、財務理論に基づきます。一定期間中に定められたコストで何らかの行為を行う権限 (つまりリアル オプション) を明示的に考慮することにより、将来的な変更と柔軟性を検討します。オプションには、投資の遅延、拡大、準備、中止、入力または出力の変更、試験的なプログラムの開発などが含まれます。

リアル オプションは、投資決定が将来のイベントの影響を受ける場合に特に適しています。IT インフラストラクチャの場合、このようなイベントとして、規制に関する要件、ビジネス要求、大規模な運用上の障害などの重要なイベントなどが挙げられます。

シミュレーション 不確定性解析はモンテ カルロ シミュレーションに基づきます。これは自動ツールを使用し、変数値の選択とプロセスの繰り返しに基づいて代替シナリオの結果を計算します。このシミュレーションでは、値の範囲 (影響を受けるワークステーションの台数や、電子チャネルの取り込み数など) と各変数の確率分布を特定する必要があります。シミュレーションの結果は可能性のある結果の範囲であり、メリットおよびコストとリスクの平均値を特定することができます。値およびリスク変数を慎重に選択してインフラストラクチャ投資の予測インパクトを反映することで、投資収益を適切に算出することができます。

シナリオ 数学的モデルまたはシミュレーション モデルが実用的でない場合や、組織の事情とスキルに適さない場合は、代わりにシナリオベースの手法を使用できます。官庁の業務やミッション、政治的な優先事項、環境の傾向 (テクノロジを含む) を考慮することで、次の 3 ~ 5 年に関する説得力のあるシナリオをいくつかに絞って作成することができます。各シナリオは、インフラストラクチャ投資のメリットを実証することだけを目的とします。

長期的な計画とは異なり、シナリオは相互に排他的である必要はなく、また将来の可能性や確率に適応できます。シナリオでは、将来の選挙、政治的論争の結果、企業買収やベンダー戦略における大きな変化などの IT 市場の動向を考慮することができます。

最悪の場合のシナリオ これはシナリオ ベースの手法の 1 つであり、近いうちに発生するビジネスまたはミッションの変更に対応するため、または現在のサービス レベルを維持するために緊急に投資が必要であると IT 組織が考える場合に使用されます。インフラストラクチャの問題が対応されない状態では問題が悪化し、問題を解決するために必要な労力が増えることになります。変更を推し進める人は抵抗に直面し、その努力はなかなか評価されません。このような状況は、影響を受ける業績に関する評価尺度と評価 (たとえば要求に対する応答時間や修理に要する時間) を強調することで部分的に対処することができます。この情報は幅広く公開し、人々が業績の変化の可能性に気づきやすいようにする必要があります。

最悪の場合のシナリオは、否定的な結果とリスクの増大に焦点を合わせ、投資を行わない場合の結果を意図的に強調するものです。この手法は、例外的な場合に限って、しかも細心の注意を払って使用します。この手法を定期的に使用すると、確立された投資管理プロセスを IT 組織が覆そうとしているような印象を与え、意見の対立や、こうしたプロセスでまさに解決しようとした不均衡につながる場合もあります。

計画方法を選択する

図 1 に各メソッドの長所と短所、およびどのような場合にそれらを検討するかをまとめました。投資効果を確実に比較できるようにするためには、一度選択したメソッドを組織全体で一貫して使用する必要があります。

Figure 1 ビジネス ケースの手法

メソッド 利点 欠点 検討する場合
リアル オペレーション (数学的メソッド)
  • 綿密性
  • 確かな理論に基づく
  • 複雑
  • 無形価値が多い場合は不適切
  • 価値および将来価値をほとんど定量化できる場合
  • 堅実な投資評価の考え方がある場合
  • スキルをすぐに使用できる場合
シミュレーション
  • 代替価値を検討できる
  • 代替手段を容易に構築できる
  • 無形資産については平均値が無意味な場合がある
  • 変数の範囲選択が非常に重要
  • 明白に認識できるメリットが多い場合
  • ツールのサポートが利用可能な場合
シナリオ
  • 有形無形のメリットを任意に組み合わせることができる
  • 異なる手法を組み合わせて、まったく異なるシナリオを検討できる
  • 比較可能なシナリオにまとめるための厳しい規律が必要
  • 計画対象期間が異なる場合がある
  • 無形価値が多い、またはメリットの本質が不明瞭な場合
  • 組織の考え方が他のメソッドに反する場合
最悪の場合のシナリオ
  • 投資を行わない場合の結果を効果的に視覚化する
  • 作成が簡単
  • 優先順位を付ける上では役に立たない
  • 誤用のおそれがある
  • 投資が必要不可欠で期限を過ぎている場合

説明した手法の効果は、さまざまな要因によって変わります。このため、まずは次の質問に答えることから始めると良いでしょう。予算や資本計画などの必須プロセスとの統合性または互換性のレベルはどの程度か。選択したビジネス ケース メソッドは使いやすいか。利害関係者に効率的に価値を伝えることができるか。

組織は、特定の部門に適合する指針値を選択する柔軟性と、すべての部門での比較を確実に行えるようにするための指導のバランスを取る必要があります。さらに、ビジネス ケースの期間中だけでなく、投資のライフサイクルを通じて一定の評価基準を使用できることが非常に重要です。同様に、さまざまな種類の投資に対応する実用性も必要です。

つまり、価値に対するアプローチは、組織の統治構造内の関係者と協力して選択し、開発することが必要です。選択したフレームワークにより、内部および外部の利害関係者に効率よく価値を伝えるこができるようになることが重要です。このことは、選出議員や官庁だけでなく、企業経営者にも当てはまります。

参考資料

Acer Maamoun は、マイクロソフト勤務のエンタープライズ戦略コンサルタントです。彼は、IT 戦略および業務提携の分野で 18 年以上の経験があります。

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