Windows の管理

Windows Vista でオフライン ファイル機能に加えられた変更点

Jeremy Moskowitz

 

概要:

  • オンラインとオフラインの連続性
  • ファイルの可用性
  • オフライン フォルダの進化

デスクトップ管理における最も難しい問題の 1 つは、オフライン ユーザーがオンラインであるかのように作業できるようにすることです。この必要性の大きさは、おそらく皆さんの想像を超えています。たった 5 年前と比較しても、ユーザーの移動性は大幅に高まっています。オフラインでの作業が必要になるケースは多数ありますが、

最も一般的なケースを 3 つ挙げると、ラップトップ コンピュータを会社のネットワークから切断して外出した場合、低速または断続的なリンクを経由して接続した場合、および支社で本社との接続が切断された場合です。

このような状況で、元のファイルがメイン サーバーにある場合、オフラインのコンピュータでそのファイルのコピーを管理するにはどうすればよいでしょうか。さらに重要なことですが、本社にいるユーザーがサーバー上のファイルを変更し、別のユーザーも外出先でそのファイルを変更した場合、どのように競合を処理すればよいでしょうか。さいわい、これらの問題はオフライン ファイル エンジンによって解決されます。このエンジンは、Windows® 2000、Windows XP、および Windows Vista® に組み込まれています。

解決策はキャッシュにあり

オフライン ファイル エンジンは、実に優れたキャッシュ装置です。実際、このエンジンは、オペレーティング システム (およびマイクロソフト) 内でもクライアント サイド キャッシュ (CSC) と呼ばれています。オフライン ファイル エンジンは構成可能で柔軟性も高いので、キャッシュするファイルをユーザーが判断できるようにしたり、必要なファイルをシステムにキャッシュしたりすることができます。このエンジンにより、オフライン時でもオンライン時と同じファイルにアクセスすることが可能になります。また、ファイルの名前空間も変更されません。つまり、オンラインとオフラインのどちらで作業している場合も、ファイルへのアクセスには同じ UNC パスまたはドライブ文字が使用されます。

キャッシュを手動と自動のどちらで行うかを各ファイルに設定することができます。外出中に特定のファイルやフォルダをよく使用することがわかっている場合は、それらを外出時に携行するファイルやフォルダとして指定するだけで済みます。これを行うには、Windows XP ユーザーの場合は、ローカルまたはネットワーク共有に保存されているファイルを右クリックし、ファイルをオフラインで使用できるようにするオプションを選択します (図 1 を参照)。Windows Vista では、このオプションの名前は [常にオフラインで使用する] です。手動でファイルをオフラインで使用できるようにする操作は、"ファイルをピンする" と呼ばれることもあります。

図 1 ファイルをオフラインで使用できるようにする

図 1** ファイルをオフラインで使用できるようにする **(画像を拡大するには、ここをクリックします)

図 1a オフライン ファイル フォルダ

図 1a** オフライン ファイル フォルダ **

使用する共有には、UNC パスで接続しても、ドライブ文字を割り当てて接続してもかまいません。また、ファイルは Windows Server® を実行しているコンピュータに保存されていなくてもかまいません。SMB (サーバー メッセージ ブロック) プロトコルがサポートされていれば、どの場所にある共有でも使用できます。たとえば、Samba サーバーや、同じく SMB プロトコルに準拠している (まれに例外もあります) NAS デバイスにある共有などを使用できます。

Windows XP では、ファイルをピンすることを初めて指定したときに、一連のウィザード画面が表示され、同期を行うタイミングをたずねられます。すべての画面で [次へ] をクリックして既定の設定を使用すると、同期はログオン時とログオフ時に毎回実行され、アイドル状態のときにもバックグラウンドで実行されます。ウィザードが完了すると、アイコンの外観が変化します。これは、ファイルがオフラインで使用できるようになったことを示しています。

ネットワークへの接続を切断すると、共有上のファイルのうち、オフラインで使用するように指定したファイル以外は使用できなくなります。このことが問題となる場合があります。アイコンは常にオフラインで使用できるファイルを示していますが、接続を切断するまでは、それ以外の一部のファイルが使用できなくなるということがわかりません。これについては、後で詳しく説明します。

ファイルをオフラインで使用できるようにする操作を手動で行うことのメリットもありますが、より自動化された方法で行った方がよい場合もあります。このようなシナリオについて、次に説明します。このシナリオで使用されるのは、よく自動キャッシュと呼ばれている方法です。

手動キャッシュよりも自動キャッシュを使用した方がよい場合

自動キャッシュは、サーバー上の共有ごとに設定されます。したがって、Sales という名前の共有があり、販売員が外回りをするときに各自のファイルを携行させたい場合は、その操作を行うよう CSC エンジンに指示します。図 2 は、Windows Server 2003 で [キャッシュ] タブをクリックすると表示される [オフラインの設定] ダイアログ ボックスを示しています。各設定の説明については、図 3 を参照してください。

Figure 3 自動キャッシュの設定

設定 説明
ユーザーが指定したファイルとプログラムのみ、オフラインで利用可能にする オフラインで使用できるようにするファイルを、ユーザーが手動で指定します。これが既定の設定です。
共有からユーザーが開いたファイルとプログラムは、すべて自動的にオフラインで利用可能にする エクスプローラで参照されたファイルとプログラムをすべて自動キャッシュします。ドキュメントではなくプログラムをキャッシュする場合には、[パフォーマンスが最適になるようにする] が使用されますが、通常はこの設定がパフォーマンスに影響を与えることはないため、ほとんどの場合、無視して問題ありません。Windows Vista では、この設定は完全に無視されます。
共有にあるファイルやプログラムはオフラインで利用可能にしない Windows 2000 クライアント、Windows XP クライアント、または Windows Vista クライアントで使用した場合、ユーザーは [オフラインで使用する] が有効になっている項目にアクセスできなくなります。
   

図 2 Windows Server 2003 の [オフラインの設定] ダイアログ ボックス

図 2** Windows Server 2003 の [オフラインの設定] ダイアログ ボックス **(画像を拡大するには、ここをクリックします)

自動キャッシュの動作を確認するために、10 個のファイル ("販売01.txt" から "販売10.txt" まで) が格納されている Sales という共有があると仮定し、その共有で [共有からユーザーが開いたファイルとプログラムは、すべて自動的にオフラインで利用可能にする] という設定を有効にしたとします。この操作の結果は、表示上はすぐにはわかりません。このため、ユーザーは、オフラインで使用できるファイルが突然増えたことを画面の表示によって確認することはできません。さらに、Windows によって開かれた (したがってキャッシュされた) ファイルのみが、後からオフラインで使用できるようになります。つまり、実際にネットワークへの接続を切断する前に、オフラインで使用する必要があるファイルをオンラインで開く必要があります。そうしなければ、これらのファイルを必要なときにオフラインで使用することはできません。

また、自動キャッシュされたファイルは、必ずしもキャッシュ内に永遠に残るわけではありません。Windows XP と Windows Vista では、この一時ファイル用領域の扱い方が少し異なりますが、重要な特徴は、領域の制限によってはファイルがキャッシュから移動される場合があるということです。ファイルは、使用状況に応じて保持されます。新しいファイルを開くとき、新しいファイル用の空き領域を作成するために、しばらく開かれていなかったファイルはキャッシュから移動されます。したがって、最近使用したファイルがまだキャッシュ内にある可能性が高いと言っても、そのファイルを使用できることが自動キャッシュによって保証されているとは考えないようにしてください。ファイルを確実に使用できるようにするには、そのファイルをピンする必要があります。管理者は、グループ ポリシーの "管理的に割り当てられたオフライン ファイル" という設定を使用してファイルをピンすることもできます。

では、実際の状況を想定した例を見てみましょう。\\server\sales 共有上で、EastSalesUser1 という名前の Windows XP ユーザーが "販売05.txt" という名前のファイルを開き、EastSalesUser2 という名前の Windows Vista ユーザーも "販売05.txt" を開いたとします。

sales 共有には自動キャッシュが設定されているので、EastSalesUser1 (Windows XP ユーザー) と EastSalesUser2 (Windows Vista ユーザー) は、オフラインになった場合に、これらのファイルを使用した作業を続行できます。これらのファイルのコピーはオフライン ファイル キャッシュに格納されています。しかし、ユーザーがまだ使用していない他のファイルはどうでしょうか。

Windows XP と Windows Vista では、会社に残っているファイルを異なる方法で処理します (図 4図 5 を参照)。Windows XP では、キャッシュされずにサーバーに残ったファイルがあることさえも示されません。オフラインになると、これらのファイルは非表示になります。この動作は混乱を招く可能性があります。一方、Windows Vista では、アイコン オーバーレイが用意されており、キャッシュされていないファイルには小さな淡色の X が表示されます。この機能は、オフラインで使用できるファイルがどれかを示すという点では大きな前進であると言えます。唯一の問題は、このオーバーレイが、接続が切断された後に表示され、オンライン セッション中には表示されないということです。したがって、ファイルの状態をさらにわかりやすく表示する機能が追加されることが望まれます。

図 4 Windows XP がオフラインになると、使用できるファイルのみが表示される

図 4** Windows XP がオフラインになると、使用できるファイルのみが表示される **(画像を拡大するには、ここをクリックします)

図 5 Windows Vista のオフライン時には、使用できないファイルが表示される

図 5** Windows Vista のオフライン時には、使用できないファイルが表示される **(画像を拡大するには、ここをクリックします)

使用できるかどうか

オフライン ファイルの使用をためらう管理者もいます。その理由はまさに、オフラインで確実に使用できるのはどのファイルであり、使用できないのはどのファイルであるか、およびそれを見分ける方法について混乱する可能性があるからです。図 5 では、"販売01.txt" の上にある緑色の円のアイコンが、このファイルを確実に使用できることを示しています (繰り返しになりますが、ピンされたファイルはオフラインで確実に使用できます)。

ただし、既に説明したとおり、"販売05.txt" は、Windows XP と Windows Vista の両方で、自動キャッシュによってオフラインで使用できるように設定されたため、必ずしもオフラインで使用できるようにはなりません。オフラインで使用できるようになるのは、参照したファイルのみであることを思い出してください。このため、これらのファイルが "一時的または場合によってはオフラインで使用できる" ことがシステムによって示されれば、さらにわかりやすくなるでしょう。アイコンによる区別はないので、どのファイルをオフラインで使用できるかを判断することが難しい場合があります。Windows Vista の UI はより優れていますが、それでも注意を払う必要があります。Windows Vista のエクスプローラに表示される [オフラインで利用] というプロパティでは、ファイルの使用可能状況に関する情報が提供されます。アイテムを選択すると、このプロパティがプレビュー ウィンドウに表示されます。そのアイテムがピンされている場合、このプロパティの値は "常に利用可能" です。ピンされていないがキャッシュされている場合、値は "利用可能" です。

一時的に使用できるオフライン ファイルという概念は Windows XP と Windows Vista で似ていますが、実装は若干異なります。図 6 は、Windows XP と Windows Vista でオフライン ファイルがどのように処理されるかを示しています。

図 6 Windows XP と Windows Vista のオフライン ファイル領域

図 6** Windows XP と Windows Vista のオフライン ファイル領域 **

簡単に言うと、Windows XP と Windows Vista のどちらにも、オフライン ファイルを格納するための場所が 1 つありますが、常にオフラインで使用できるファイルと一時的にオフラインで使用できるファイルの保存方法は、両者の間で少し異なります。

Windows XP では、常にオフラインで使用できるファイル (図 1 のようなアイコンの変化で示されます) は、現在配置されている場所に永遠に配置されます。合計 10 GB の複数のファイルを手動でピンして常にオフラインで使用できるようにした場合、10 GB すべてが、常に使用できるようになります。ユーザーがピンすることができるファイルの数に制限はありません (パーティションの最大サイズを考慮しなかった場合)。しかし、Windows XP で自動キャッシュされるファイルは最大 2 GB に制限されています。考え方としては、定期的に開かれるファイルのみがここに保存され、しばらく使用されていないファイルは必要に応じて移動されます。既定では、一時的に使用できるファイル用のキャッシュには、ハード ドライブの空き領域の 10% が割り当てられます (図 7 を参照)。これを設定できるのは、Windows XP の管理者のみです。

図 7 Windows XP でオフライン ファイル用のディスク領域を設定する

図 7** Windows XP でオフライン ファイル用のディスク領域を設定する **

Windows Vista でも、ファイルを永久または一時的に保存することができます。ただし、Windows XP の場合とは異なる点があります。一時ファイルのキャッシュは、キャッシュ全体の中に含まれています。既定では、キャッシュ全体 (一時ファイルのキャッシュと常にオフラインで使用できるファイルのキャッシュ) に割り当てられる領域は、ハード ドライブの空き領域の 25% に制限されています。この設定が変更された理由は、Windows XP では、ユーザーが手動で (おそらく数十 GB まで) ファイルをキャッシュし続けた場合、ハード ドライブの空き領域を完全に使い果たしてしまう可能性があったからです。新しい方式では、管理者がキャッシュ全体用に一定の領域を確保するので、このような事態は発生しません。図 8 をご覧ください。ドライブの空き領域の 25% が、ドライブ全体の 15.2% という紛らわしい形式で表記されています。また、2 つ目のスライダ (一時ファイル用に使用する領域の最大値を設定するために使用します) を 1 つ目のスライダ (すべてのオフライン ファイル用に使用する領域の最大値を設定するために使用します) よりも高い値に設定することはできません。[オフライン ファイルのディスク使用量の制限] のこれらのスライダにアクセスするには、[制限の変更] をクリックします。ただし、これを行うには管理者の資格情報が必要であることに注意してください。

図 8 Windows Vista でオフライン ファイル用に使用できる領域

図 8** Windows Vista でオフライン ファイル用に使用できる領域 **

キャッシュの頻繁な発生を防ぐ

Windows ではフォルダのリダイレクトという機能も提供されています。この機能を使用すると、通常ローカル コンピュータに保存されている特定の主要なフォルダを、実際にサーバーに保存することができます。重要なファイルのコピーがネットワーク共有上に保存されるので、ローカル コンピュータが故障しても心配する必要はありません。

リダイレクトされたマイ ドキュメント フォルダ (Windows XP の場合) またはドキュメント フォルダ (Windows Vista の場合) があるとします。この場合 (つまり、フォルダがリダイレクトされた場合)、オペレーティング システムでは、リダイレクトされたフォルダ内のファイルを常にオフラインで使用できるようにする必要があると見なし、このフォルダ内のすべてのファイルに図 1 のような記号を付けます。欠点は、接続が安定した常時オンラインのネットワーク上で、別のコンピュータを使用して作業する場合、そのコンピュータを使用するのが 1 回のセッションの間だけであっても、リダイレクトされたフォルダの内容がそのコンピュータにすべてキャッシュされるということです。これは領域の無駄遣いであるだけでなく、適切に対処しなければセキュリティ リスクになります。

ファイルが自動的かつ無意識のうちにキャッシュされてしまう別のケースとして、エクスプローラを使用して共有上のファイルを参照する場合があります。自動キャッシュが有効になっていると、エクスプローラを使用してネットワーク共有上の一連のグラフィック ファイルなどを参照するだけでも、非常に高い確率で、これらのファイルが自動的にダウンロードされてキャッシュに格納されます。エクスプローラを使用してファイルを参照するだけで、それらのファイルが一時的なオフライン キャッシュに格納される条件が十分に満たされるからです。ファイルのサイズやイメージのプレビューなどのメタデータを取得するために、共有内のすべてのファイルを参照することはよくあります。これが高速で接続が安定したリンクを経由して行われる場合は、特に問題は発生しません。ファイルはすばやく自動的にキャッシュされ、後から利用できるようになります。しかし、自動キャッシュが有効になっていて、低速リンクを経由してそのネットワーク共有に接続している場合は、大きな窮地に陥る可能性があります。既定では、Windows XP のエクスプローラと Windows Vista のエクスプローラのどちらを使用した場合でも、基本的にこの状況は同じです。ただ、嬉しいことに、Windows Vista のオフライン キャッシュ エンジンを訓練して、低速リンクの認識精度を高めることができます。

オフライン ファイルとグループ ポリシー

Windows Vista でオフライン ファイルに加えられた主な変更点

オフライン ファイル チームのメンバは、お気に入りの変更点について皆さんに知っていただきたいと思っていましたが、この記事の中では、そのすべてを説明できるスペースがありませんでした。そこで、以下にオフライン ファイルの主要な変更点を簡単に示します。

  1. オフラインからオンラインにシームレスに移行できるようになり、開いているハンドルによって移行がブロックされることはなくなりました。
  2. オフラインの単位がファイルであるため、1 つの共有がオフラインになったことでサーバー全体がオフラインになることはなくなりました。
  3. エクスプローラの [オンライン作業] と [オフライン作業] を使用して切り替えることにより、強制的にオフライン モードにすることができます。
  4. キャッシュされたコンテンツがユーザーごとに暗号化されます。
  5. 新しい同期エンジンでは、変更の検出と分析がはるかに高速に実行されます。
  6. Windows サーチと統合されたため、リダイレクトされたフォルダのインデックスを作成できるようになりました。
  7. ローカルからリモートへの同期では、ビットマップの差分転送機能を活用できます。
  8. 同期センターを使用して、保留された競合を解決できます。
  9. 通知領域のバルーンが表示されなくなったため、ユーザーはこれに煩わされずに済むようになりました。
  10. COM API と WMI でオフライン ファイルの管理が包括的にサポートされるようになりました。これらのリファレンスについては、MSDN® (msdn2.microsoft.com/bb530662) を参照してください。
  11. WMI プロバイダを使用したスクリプトがサポートされます (これに関するドキュメントは近々 MSDN で公開されます)。
  12. [オフライン状態] および [オフラインで利用] という新しいシェル項目プロパティが提供されます。
  13. オフライン時に、使用できない名前空間要素が非実体化によって示されます。エクスプローラでは、これらの要素は灰色の "X" というオーバーレイが付いた淡色の項目として表示されます。このため、オンラインからオフラインに移行したときにシェル フォルダの見た目が大幅に変わることはなくなりました。
  14. 新しいコントロール パネル アプレットが提供されます。

上記のことについて詳しく知りたい場合は、私の著書やマイクロソフトのドキュメントで多くの情報を入手できます。

前述のとおり、ユーザーがファイルを操作する (またはエクスプローラでファイルを参照する) と、ファイル全体がキャッシュに格納されます。そのファイルが 80 MB の Visio® ドキュメントまたは Word ドキュメントだとしたら、それはもう仕方ありません。Windows XP と Windows Vista は、どちらも低速リンクとは何かということを認識しています。実際、既定では、Windows XP は低速リンクの速度を 64 Kbps と認識しています。接続速度がこれより高速で、クライアントが Windows XP の場合、ユーザーにとっては非常に残念なことですが、ファイルはその低速なパイプラインを経由してログオン時にダウンロードされます。したがって、その低速リンクを経由して行う処理をより適切に管理できるように Windows を構成することが最善策です。この後すぐに説明しますが、この作業はグループ ポリシーを使用して行うことができます。具体的には、グループ ポリシー オブジェクト (GPO) を作成して、対象である Windows XP または Windows Vista アカウントが含まれた組織単位 (OU) にリンクします。

ユーザーが低速リンクを経由して接続すると、Windows XP は、ネットワーク上のコピーを使用する前に、ローカルにキャッシュされているファイルの使用を試みます。これは理にかなっています。しかし、Windows XP では、皆さんが想像していないと思われる処理が行われます。ユーザーがキャッシュにまだ存在しない大きなファイルをネットワークから開くか、エクスプローラで参照すると、そのファイルはダウンロードされます。何ということでしょう。また、テストを行ったところ、ログオフ時に同期が行われるようにスケジュールされている場合 (これは既定の設定です)、これらのファイルの残りは低速リンクを経由してダウンロードされ、キャッシュに格納されます (これまた、何ということでしょう)。

Windows Vista の動作はこれとは異なります。既定では、どのような状況も低速とは認識されません。実際、空き缶を経由して 1 秒あたり 1 ビットの速度で接続している場合でも、Windows Vista ではその接続は高速として扱われるため、ネットワーク上のコピーが使用されます。しかし、Windows Vista では、接続が低速である場合にオフラインに移行する必要がある共有を理解させることができます。これを行うと、事態は少し良くなります。グループ ポリシーを使用して Windows Vista を構成すると、低速リンクに関する設定が定義された共有内のファイルは、低速リンクを経由した通常のファイル操作やエクスプローラによる操作では使用できなくなります。

オフライン ファイル サービスによって実行されるバックグラウンド同期は、低速な接続では実行されません。ただし、同期センターを使用して、手動で同期を実行できます。

低速リンクの処理方法を変更するように Windows Vista を構成するには、グループ ポリシーの "低速リンク モードを構成する" という設定を使用します (Windows XP の "低速リンクの速度を構成する" という設定と名前が似ていますが、混同しないように注意してください)。"低速リンク モードを構成する" に設定する値は、接続が低速のときに自動的にオフラインに移行するサーバーと共有の名前、およびどのくらい低速だったらその共有をオフラインにするかです。サーバーと共有の名前は、\\server\share の形式で指定するか、アスタリスク (*) 1 つ (すべてのサーバー上のすべての共有を示します) で指定することができます。2 つ目の値のセットは、低速と判断されるスループット (kbps 単位) と待機時間 (ミリ秒単位) のしきい値です。ただし、ここで注意することがあります。ファイルをダウンロードするときに、この 2 つのうちの役に立つ方 (つまりスループット) が確認されないということです。このため、リダイレクトされたドキュメント フォルダに合計 10 GB の複数のファイルが格納されていて、まだこれらのファイルのいずれも格納されていないラップトップ コンピュータで低速リンクを使用している場合は、長時間待機することを覚悟してください。ただし、待機時間の確認を併せて実行し、待機時間が所定の値未満になる場合は、共有はオフラインに移行するため、ユーザーはこれらのファイルのために長時間待機しなくて済みます。

サポート技術情報の記事 934202 に記載されている Windows Vista の修正プログラム (この変更は Windows Vista Service Pack 1 に盛り込まれる予定です) を適用すると、特定の条件下で行われる低速な VPN 接続のパフォーマンスが向上します (この記事は、support.microsoft.com/kb/934202 で公開されています)。この修正プログラムを適用すると、低速リンクを経由してダウンロードが実行されたときに、スループットの値が確認されるようになります。

同期の競合

あるユーザーがオフラインで (たとえば飛行機に乗っているときに) ファイルを変更し、別のユーザーがそのファイルをオンラインで (本社にあるコンピュータで) 変更したらどうなるのか、おそらく疑問に思うでしょう。この状況への対処はクライアント レベルで行われます。オフラインからオンラインに移行するとすぐに、Windows Vista でオフライン ファイルのバックグラウンド同期が実行されます。次に、実行する処理を指定するよう要求されます (処理の指定は、タスク バーの通知領域にアイコンが表示された後に同期センターで行います)。新しい方のファイルがわかるように、また競合に関する情報がさらに詳しく表示されるように、ユーザー インターフェイスが再設計されました。ユーザーは、現在自分のコンピュータ上にだけ存在するファイルをサーバーに保存するとき、図 9 のようにそのファイルの名前を変更することにより、競合するファイルを保持できます。

図 9 ファイルへの変更が競合していることを示す Windows Vista の通知

図 9** ファイルへの変更が競合していることを示す Windows Vista の通知 **(画像を拡大するには、ここをクリックします)

関連情報

オフライン ファイルは、管理者とユーザーの両方にとって役立つ機能です。フォルダのリダイレクトを使用している場合は、オフライン ファイルを既に使用しているので、より効率的に使用することを考えるとよいでしょう。この記事では Windows Vista でオフライン ファイルに加えられた変更点をいくつか紹介しましたが、すべては紹介していません。詳細については、補足記事「Windows Vista でオフライン ファイルに加えられた主な変更点」を参照してください。

オフライン ファイルに関するさらに詳しい情報をオンラインで確認できます。Windows XP については go.microsoft.com/fwlink/?LinkId=98141 を、Windows Vista については go.microsoft.com/fwlink/?LinkId=98138 を参照してください。

また、私の著書 (この記事の最後にある略歴を参照) にも、オフライン ファイル専用の非常に長い章があります。この章には、すべてのグループ ポリシー設定の詳しい説明も記載されています。さらに多くの情報を参照し、オフライン ファイルに関する経験について他のユーザーと話すには、GPanswers.com のコミュニティ フォーラムを参照してください。このフォーラムには、オフライン ファイル専用のセクションがあります。

Jeremy Moskowitz (グループ ポリシーの MCSE および MVP) は、グループ ポリシーのコミュニティ フォーラム GPanswers.com を運営しています。また、グループ ポリシーについての一連の集中トレーニング ワークショップも開催しています。最近の著書には『Group Policy: Management, Troubleshooting, and Security』(Sybex、2007 年) があります。Jeremy には、www.GPanswers.com から連絡を取ることができます。また、この Web サイトでグループ ポリシーに対する理解を深めることもできます。

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