フィールド ノート顧客中心主義

Romi Mahajan

アリストテレスは『ニコマコス倫理学』で、「われわれは徳とは何であるかを知るためにではなく、善き人になるためにこそ、考察を行っているのである。でなければそのような考察は無意味であろう。」と書いています。彼の考えでは、徳とは理論によって実現できるものではなく、経験および "善" の発生につながる直接的な行為のたまものです。同様に、組織は、"顧客中心主義" や "顧客への気遣い" という理論的な概念があることによって、顧客のために優れた成果を実現することにいっそう集中できるようになるわけではありません。経験と真の学習から生まれた活動 (顧客自身が役に立ったと認める活動) によってのみ、組織はこうしたことにいっそう集中することができるのです。

ここまでの話に関しては、(皆さんがアリストテレス派であるかどうかにかかわらず) 納得していただけたと思います。ですが、皆さんは、これが IT 組織と一体どういう関係があるのかとお聞きになるかもしれません。これは哲学的な問いではなく TechNet Magazine ですから。簡単に言うと、答えは、「すべて」です。

では、実際のところ、IT 組織が "徳が高い" ことを示すには、どうすればよいのでしょうか。これを示すには、次の 3 点を立証する必要があります。1 つ目は理論的なことで、2 つ目と 3 つ目は実践的なことです。

  • サービスの提供対象である顧客を気遣っている。
  • 毎日、この気遣いに基づいて活動している。
  • 顧客が何かをより適切に行うのにこのような活動が役立ったということを、顧客が証言している。

これを分析的に見ていきましょう。まず、実際のところ、IT 組織の顧客とはどのような人々なのでしょうか。私の考えでは、顧客には、サービスを利用する組織内の人々だけではなく、外部のパートナーや、会社と取引を行う顧客も含まれます。要するに、IT 組織にも他の組織と同様に顧客が存在するということです。IT 組織は顧客を気遣っているでしょうか。私は、サービス組織としての役割を組織理念の中で役割の 1 つとして明確に挙げていない IT 組織を見たことがありません。本気でサービスを提供するということは、気遣うということです。ここまでのところで、理論的な側面についてはほぼ説明しました。ですが、アリストテレスが忠告しているように、実践的な側面の方がより重要です。

IT 組織は、毎日この気遣いに基づいて活動しているでしょうか。私の考えでは、その答えは「ノー」です。IT 組織の "サービス" 部分のうち、あまりにも多くの部分は、手続きが煩雑で、抽象的で、疲れてしまうような作業を含んでいます。繰り返しますが、これは悪意の問題ではなく、根本的な前提を毎日明確に適用できていないというだけの問題です。IT 組織は毎日善いことを行っているでしょうか。はい、行っています。IT 組織は毎日善いことを十分に行っているでしょうか。いいえ、行っていません。

最後に、顧客は、IT 組織の活動を認めているでしょうか。また、IT 組織が提供するサポートを肯定的にとらえているでしょうか。これはすべての質問の中で最も単純な質問です。声を大にして言いますが、答えは (皮肉なことに)「ノー」です。私の経験では、IT のすばらしさをほめちぎっている人に出会うことは本当にとてもまれです。

では、どのようにこれに対処すればよいのでしょうか。以前のコラムで、私は、"IT が重要である" かどうかをはっきりさせることは、IT 組織が実際のところ重要でないという前提に信憑性を与えることになるので、不要かつ非生産的な行為であると書きました。ここでは、まったく異なるアプローチをご提案します。自己弁護によってではなく私たちらしくふるまうことによって、IT 組織が徳が高いことをより簡単に示しましょう。何を望んでいるかを顧客に聞いて、顧客の要求に対して組織がどの程度のレベルに達しているかを調べるのです。

私だったら、ideascale.com (または他のクラウドソーシング ツール) にアクセスして、私の組織について、および私の組織に対して何を求めているかについて顧客の意見を得るための具体的な場を設けます。内部および外部の顧客から意見を募集してください。顧客の意見を聞き顧客とやりとりすることによって、きっと、気付いたら顧客の望みの 90% には既に対処していることになるでしょう。これはかなり高い比率であり、間違いなく徳と呼ぶのにふさわしいでしょう。

私自身が IT 組織とかかわってきた経験は、概して非常に良いものでした。マイクロソフトで働いていたとき、私は、IT は非常に役に立つものであり、また改善方法に関する新しいアイデアを柔軟に受け入れるものであると感じていました。現在の勤務先である Ascentium においてもこれは同じです。私は運がいいのでしょうか。はい、たぶん。私は IT を利用する顧客でしょうか。はい。私は IT をほめちぎっているでしょうか。はい。

これで 1 回分の善循環が終わりました。では、もっともっと繰り返しましょう。

Romi Mahajan は Ascentium Corporation のマーケティング最高責任者です。Ascentium に加わる前は、マイクロソフトに 7 年以上勤務し、最後はテクニカル オーディエンスおよびプラットフォーム マーケティングを率いるディレクタを務めていました。テクノロジ、政治、経済学、社会学など幅広い分野で自身の考えを発表しています。