エンタープライズで使用できる品質の Web サービス管理ソリューションの構築と展開

公開日: 2005年12月21日

ITSHWCAS

基幹業務アプリケーションは、独立した単体のシステムとして設計および構築されていることが多く、そのためアプリケーション間の情報共有は困難で、時間もかかっていました。Microsoft では、社内のすべての基幹業務アプリケーションにアクセスするために、容易に Web サービスを開発、展開、および管理できる Web サービス管理ソリューションが必要だと認識しました。

この技術的なケース スタディは、全社規模の Web サービス ソリューションの設計、展開、および管理に関心を持つ IT アーキテクト、開発者、およびサポート スタッフを対象読者としています。また、組織でサービス指向アーキテクチャ (SOA) を採用する場合の問題について理解する必要がある基幹業務アプリケーションの所有者およびアナリストにとっても有用です。

トピック

背景
状況
ソリューション
利点
得られた教訓
今後の方向
まとめ
詳細情報

背景

4 年を超える期間にわたり Microsoft Information Technology グループ (Microsoft IT) は、Web サービスによって基幹業務アプリケーションのサービスとデータを統合するという貴重な経験を重ねてきました。

Microsoft では、現在の社内向け Web サービス開発管理ソリューション ("Alchemy" プロジェクトと呼ばれています) を開発する前に、基本的な Web サービス標準 (SOAP、WSDL、XSD、UDDI など) を使用して Web サービスの開発を開始しました。当初の目標は、次の 4 つの中核的な基幹業務アプリケーションの業務データを容易に統合できるようにすることでした。

  • Siebel (顧客関係管理)

  • Clarify (製品サービスの要求管理)

  • MS Sales (製品売上レポート)

  • World-Wide Sales および Marketing Database (電子メールのニュースレター購読、イベントへの招待、各種販促活動の管理)

Microsoft IT の最初の Web サービスは、複数の業務アプリケーションの読み取りと更新アクセスをサポートしていました。Microsoft では、基幹業務アプリケーションのサービスやデータにアクセスするための Microsoft IT 標準として、それらの Web サービスをクライアント サーバー ベースのアプリケーションで使用していました。最初の社内向け Web サービス アプリケーション "Account Explorer" など、Web サービスを展開した当初の経験の詳細については、このケース スタディの最後にある「詳細情報」を参照してください。

状況

基本的な Web サービス標準 (SOAP、WSDL、XSD、および UDDI) には、分散アプリケーションの構築と接続に必要な機能が備わっています。しかし、Web サービスの開発、展開、および管理のための、実稼動可能な品質のエンタープライズ環境をサポートするには、それらの標準のみでは不十分です。社内向け Web サービス開発管理ソリューションの 2 回目のリリースでは、この問題と以下の問題に取り組みました。

  • 共通の開発標準の欠如

  • 展開と変更を管理する共通プロセスの欠如

  • Web サービス運用管理インフラストラクチャの要件

Web サービスを基にした全社規模のサービス指向アーキテクチャでこれらの問題を解決することが決定されました。Web サービス開発管理ソリューションには、基幹業務アプリケーションの開発者、運用スタッフ、および所有者に必要な展開、管理、およびサポートの機能が追加されました。

共通の開発標準の欠如

Microsoft IT が Web サービスの開発と展開で最初に経験したことは、各基幹業務アプリケーションのサポート グループが、自分たちのアプリケーションで使用する Web サービスを作成および展開していたという一般的なものでした。基本的な Web サービス標準を使用したところ、ユーザーとプロセスの認証、サービスの要求や応答に対するデジタル署名と暗号化、パラメータ データの整形、エラー条件の処理に使用する選択肢があまりにも多いことがわかりました。その結果、セキュリティ ソリューションに互換性がない、開発作業が重複する、管理プロセスに一貫性がない、サービス レベルが予測できないなどの問題が発生しました。共通の統合された管理ソリューションを使用せず、基本的な Web サービス標準のみを使用したところ、互換性のない Web サービスがばらばらに作成され、Web サービスの利点を余すことなく得ることができませんでした。

展開と変更を管理する共通プロセスの欠如

Microsoft では当初、Web サービスをアプリケーションごとに展開しました。その結果、運用と変更管理のいずれの観点からも管理が難しい Web サービス環境ができあがりました。

開発者のグループにとって、Web サービスを開発プロセスからテストを経て実稼動に移行することは困難でした。サーバー インフラストラクチャにも、Web サービスを手動で展開および構成するスタッフにも、開発プロセス、テスト プロセス、および展開プロセスは大きな負担でした。サーバーの増設が必要になり、その結果ハードウェアや運用管理のコストが増大しました。また、アプリケーション ソフトウェアを手動でインストールおよび構成することで不整合が発生し、その検出、修正、および管理が困難でした。

運用管理インフラストラクチャの欠如

企業のコンピュータ環境には、サービス レベル契約 (SLA) の運用管理と実施について、統一的な方法が必要です。すべての Web サービス トランザクション (Web サービスの要求と応答) の監視、ログ、分析、および報告をサポートする必要があること、契約外の SLA 条件があった場合に警告を発行することが求められます。

Microsoft IT は、予測可能なサービス レベルを Web サービスの所有者が提供するには、Web サービスの運用管理のための適切なインフラストラクチャが必要であると認識しました。

Web サービスのサブスクリプションとサービス レベル契約のサポートの自動化に未対応

Web サービスを展開し、複数の開発プロジェクトで使用してきた経験を基に、Microsoft IT は他に要件が多数あることを突き止めました。たとえば、アプリケーション開発者が Web サービスをサブスクライブしようとしていることを Web サービス プロバイダに通知するための、正式なプロセスが必要だとわかりました。Web サービスをサブスクライブすることで、Web サービスのコンシューマと所有者の関係が確立されます。このプロセスにより、Web サービスのコンシューマが特定の Web サービスを使用する意図があることを示す通知が所有者に渡され、双方の当事者の間に適切な SLA パラメータが確立されます。サブスクリプション プロセスでは、変更の保留、機能停止、および契約外の SLA 警告が発生した場合に双方向の通知を行うため、コンシューマと所有者が連絡先情報を交換する必要があります。

ソリューション

最初に Web サービスを展開したときに判明した問題を解決するため、Microsoft IT は社内向け Web サービス開発管理ソリューションを開発および展開しました。この Web サービス開発管理ソリューションにより、安全で一貫性のある全社規模のインフラストラクチャを整備し、その中で Microsoft 社内の幅広い業務アプリケーションで使用されている Web サービスを開発、展開、および管理できるようになりました。

Microsoft 初の社内向け Web サービス開発管理ソリューションの目標は以下のとおりでした。

  • Microsoft テクノロジを使用して、包括的な Web サービス管理ソリューションを作成する。

  • アジリティ (俊敏性) があり、再利用可能で包括的な Web サービス フレームワークによって、Microsoft のすべての基幹業務アプリケーションをサポートする。

  • 開発チームが基幹業務アプリケーション環境に Web サービスを簡単に構築し、利用できるようにする。

  • 認証、デジタル署名、暗号化、パラメータ データの整形、およびエラー条件の処理に使用するテクノロジが統一されずに、スタンドアロンの Web サービスが開発される傾向を抑える。

  • Web サービスの分類、検出、再利用を可能にする単一の包括的なリポジトリを確立する。

  • 開発や管理の複雑さを軽減し、Web サービスの運用をサポートするときの諸経費を削減する。

サービス指向アーキテクチャ モデルについて

サービス指向アーキテクチャ (SOA) では、アプリケーションは相互作用と連携をもたらすサービスとして構造化されます。各サービスは、標準を使用して検出およびアクセスできるように設計されます。Microsoft IT は、SOA モデルを使用してソフトウェアを設計すると、業務システム開発に伴う問題を解決するときに、標準を使用できるだけでなく、優れた費用対効果があることに気付きました。開発者は、システムの相互運用性やデータの統合についての要件に短時間で対処できました。Microsoft IT は、従来のオブジェクト指向、コンポーネント ベースの設計を脱却し、簡単に組み合わせて新しいサービスやエンド ユーザー アプリケーションを作成できる共通の業務サービスを基にしたモデルに移行しようと考えました。

Microsoft では、1 つの組織を対象範囲とする 1 台のコンピュータで実行する 1 つのシステムで動作する範囲を越えて、アプリケーションが拡張していることを認識しました。Web サービスはアプリケーション ロジックの分割単位として開発および展開され、ネットワーク全体からアクセスできるメッセージ ベースのインターフェイスを公開していました。そこで Microsoft IT は、業界で定めた標準と仕様に基づいて構築したサービス指向のアーキテクチャを採用すれば、アプリケーションの相互運用を簡単に行い、新しいソリューションを短時間で作成できると考えました。

サービス指向のアーキテクチャを正常に展開および運用するには、全社で使用できる品質の Web サービス管理ソリューションを展開する必要があることがわかりました。

Microsoft の Web サービス開発管理ソリューションの概要

Microsoft IT の社内向け Web サービス開発管理ソリューションにより、実稼働環境で Web サービスを使用するときに必要な検出、セキュリティ、管理、通知、および分析の作業が簡素化されます。このソリューションには、集中管理システムと連動する分散型設計の考え方を盛り込みました。この設計は、"Alchemy バックエンド" と “Alchemy インターフェイス" の 2 つの主要サブシステムに分割できます。

"Alchemy バックエンド" は、データの管理、トランザクション履歴の保存、サービスの登録、および実行の検証についてのサービスを提供します。また、システム ユーザー、ロール、運用指標などの Web サービス構成データとの対話処理を行い、データを保存します。利用側のアプリケーションや Web サービス プロバイダのインプロセスでは、同一の "Alchemy インターフェイス" が実行されます。"Alchemy インターフェイス" では、受け渡しされるすべての SOAP の要求と応答のトランザクションを処理します。

図 1. Microsoft IT の Web サービス開発管理ソリューション

図 1. Microsoft IT の Web サービス開発管理ソリューション

Microsoft IT の Web サービス開発管理ソリューション (図 1) は 2 つのサブシステムから構成されます。

  • Web サービスの各コンシューマとプロバイダのインプロセスで実行される "Alchemy インターフェイス" のインスタンス

  • "Alchemy インターフェイス" のエンドポイント間で交換されるすべての Web サービス呼び出しを集中管理するサービスを提供する "Alchemy バックエンド"

既定では、ホスト アプリケーションからは "Alchemy インターフェイス" との対話処理が完全に切り離されます。Microsoft IT は、Microsoft Web Services Enhancements (WSE) for Microsoft .NET を基盤として "Alchemy インターフェイス" を実装しました。

Web Services Enhancements (WSE) for Microsoft .NET

Web Services Enhancements for Microsoft .NET (WSE) は、Microsoft Visual Studio .NET と Microsoft .NET Framework のアドオンとしてサポートされます。このアドオンにより、高度な Web サービスの仕様を基に Web サービスを開発するための最新機能を利用できます。また、既に高度な Web サービス テクノロジを採用している場合でも、進歩する Web サービスの仕様のうちサポートされているものを選び出して実装できます。

WSE を使用すると、バイナリ形式の添付ファイルを使用できるだけでなく、デジタル署名や暗号化などのセキュリティ機能がサポートされます。さらに、複数のホスト アプリケーション環境がサポートされると共に、ポリシー フレームワークやメッセージ ベースのプログラミング モデルを使用できます。これらの機能を実装するために、以前は WS-Security、WS-Policy、WS-SecurityPolicy、WS-Trust、WS-SecureConversation、および WS-Addressing を使用していました。WSE を使用すると、開発者や管理者がこれらの仕様を基に簡単に Web サービスを実装できるようになり、Web サービスの開発が簡素化されます。Kerberos チケット、X.509 証明書、ユーザー名とパスワードによる資格情報、その他のバイナリ形式や XML ベースのカスタム セキュリティ トークンを使用して、Web サービスの要求と応答に署名したり、それらを暗号化できます。

Microsoft IT は、次のようなさまざまな理由から社内向け Web サービス開発管理ソリューションを WSE を使用して実装しました。

  • 標準を使用した Web サービスを最も効率良く実装できる。

  • サービス指向アーキテクチャを使用した分散アプリケーション開発に対する Microsoft の長期ビジョンに WSE が適している。

  • WSE は面倒な設定が必要なく、高度な Web サービスの仕様を実装する他のプラットフォームと相互運用できる。

WSE を採用したことで、Microsoft の Web サービス開発管理ソリューションは、現在だけでなく将来の Web サービス標準に基づく環境との相互運用性も獲得しました。

Web Services Enhancements (WSE) for Microsoft .NET の詳細については、このケース スタディの最後にある「詳細情報」を参照してください。

メッセージ処理

Microsoft IT の社内向け Web サービス開発管理ソリューションでは、受け渡しされる SOAP メッセージを処理するために、フィルタのパイプラインを使用しています。送信する SOAP メッセージにヘッダーを追加するフィルタや、受信したメッセージのヘッダーを読み取って妥当性を確認するフィルタがあります。フィルタは、SOAP メッセージ本文を変換するためにも使用できます。

"Alchemy インターフェイス" の中でアクティブなメッセージ処理コンポーネントは、WSE の入出力フィルタとして実装されます。Web サービス メッセージの処理について図 2 に示します。

図 2. メッセージ処理

図 2. メッセージ処理

"Alchemy インターフェイス" は "Alchemy バックエンド" とのすべての対話処理を行います。対話処理には、"Alchemy バックエンド" の構成サービス、Security Token Service (STS)、および Global Transaction Service (GTS) との通信が含まれます。これらのサービスにより、SLA の情報提供と追跡メカニズムの提供、認証とメタデータを集中管理するサービス、トランザクションを包括的にログに記録するサービスが行われます。

パフォーマンスを最適化するため、Web サービスの各コンシューマと各プロバイダがローカル トランザクション ストア (LTS) にトランザクション ログを記録します。トランザクションが一括処理されて定期的に GTS に配布された後、最終的なアーカイブ処理、SLA の監視、分析、報告、および警告の処理が行われます。警告の作成には SQL Server 2000 Notification Services を使用します。

また、"Alchemy インターフェイス" からはソリューションの UDDI サービスにクエリを発行し、Web サービスのエンティティやカテゴリについての情報を取得します。Web サービスの検索の編成、分類、およびサポートには、Microsoft 社内向けに開発した分類法が使用されます。各業務サービスも、サービスの優先度、運用環境 (開発、テスト、実稼動)、Web サービスの地理的な場所、応答の所要時間、およびその他のキーワードや SLA 関連のパラメータによりサブカテゴリに分類されます。

主要機能

Microsoft IT の社内向け Web サービス管理開発ソリューションの機能を以下に示します。

  • 標準の開発フレームワーク

  • アクセス許可の管理

  • サービス レベル契約 (SLA) の管理

  • サービスの動的な選択

  • 集中管理

  • 監視とレポートのシステム

  • サブスクリプションの自動化とワークフロー機能

標準の開発フレームワーク

Microsoft IT の社内向け Web サービス管理開発ソリューションを使用することで、ソリューション開発者と運用スタッフが Web サービスの構築、展開、運用、管理のための一貫したフレームワークを使用できます。Web サービス開発者は一貫したフレームワークと API を使用して、Web サービスを作成および運用します。このソリューションの構成設定の大部分は、一元的に構成できる管理パラメータとして切り離されています。切り離される管理パラメータには、認証、デジタル署名、暗号化、メッセージなどの設定が含まれています。Web サービスの展開には、開発、テスト、および実稼動の環境で共通の管理ツールを使用します。

新しい Web サービスの開発、テスト、および展開に必要な時間と労力も減少しました。Microsoft はいくつかのプロジェクトを経て IT の経験を重ねたことで、以前であれば 4 ~ 6 か月必要だった Web サービスの実装を 4 ~ 6 週間に短縮しました。

このソリューションがなければ、Web サービスは開発、展開、および管理のためのインフラストラクチャを個別に用意する必要がありましたが、そのような Web サービスを作成せずに済みました。また、必要なサーバー ハードウェアとソフトウェアのリソースが減少し、Web サービスを展開および管理するために必要な人手による作業の量も減少しました。

アクセス許可の管理

Microsoft IT の Web サービス管理開発ソリューションは、セキュリティに一定の重点を置いて設計されました。特に、特定のリソースに対する呼び出しレベルのアクセスを制御するアクセス許可の管理メカニズムが実装されています。このメカニズムは、中央のサーバーでポリシーを構成し、それを対象のリソースにアクセスするように構成されているクライアントに配布するしくみです。トランザクションに関係しているすべてのプリンシパルが必要なアクセス許可を持っていて、対象サービス用に作成されたポリシーに準拠していることを Web サービスのコンシューマとプロバイダで確認します。

複数の種類の認証がローカルで有効で、その検証は集中管理されます。"Alchemy インターフェイス" では、NTLM、Kerberos、Microsoft Passport、および X509 証明書を使用した認証をサポートしています。Web サービスのコンシューマとプロバイダの ID が正常に認証されると、ユーザー ロール、トランスポートのオプション、SLA パラメータなどのデータが返されます。

サービス レベル契約の管理

Web サービスのリソースには、SLA が関連付けられています。SLA は、応答時間、タイムアウト、運用環境 (開発、テスト、実稼動)、優先度、キーワードなどの、サービス レベル パラメータを示す具体的な値から構成されます。このサービス レベル パラメータを使用することで、ソフトウェア構成またはハードウェアを追加することなく、1 つのアプリケーションで複数のコンシューマからの要求にさまざまな方法で応答できるようになります。

サービスの動的な選択

Web サービス要求をどのプロバイダに送信するかは "Alchemy インターフェイス" により決定されます。ホスト アプリケーションが関与する必要はありません。クライアントの要求を最適に処理するため、サービス プロバイダの機能と SLA が照合されます。このようにプロバイダの選択肢があるので、各 Web サービス コンシューマからの Web サービス要求は最適なサービスにより応答されます。

集中管理

Microsoft IT の Web サービス開発管理ソリューション開発チームは、Web サービスを一元的に構成できる構成サービスと Web サービス フィルタを設計しました。その結果、Web サービスの構成に行う変更を 1 か所で制御できます。一元化された構成サービスを使用した結果、精度が向上し、少ない運用スタッフで稼動できるようになり、可用時間が伸びました。全体的には、システムのサポート コストと Web サービス環境の管理に必要なスタッフの数を削減できました。

監視とレポート

Microsoft IT の社内向け Web サービス開発管理ソリューションを使用すると、Web サービスのトランザクション ログが自動的にローカル トランザクション ストアに記録されます。ログはバッチとして定期的に送信され、グローバル トランザクション ストアが更新されます。その結果、サービス レベル契約 (SLA) の運用管理と実施に必要な監視、分析、報告、および警告が可能になります。

Web サービスの所有者は、応答時間が長い、"サービスがダウンした" 状況など、契約外の SLA 条件を事前に管理するための通知を自動的に受け取ることができます。

サブスクリプションの自動化とワークフロー

Web サービス開発管理ソリューションの最新リリースでは、開発者が既存の Web サービスを使用する意思を示すことができるように、サブスクリプション ワークフロー プロセスを自動化しました。このプロセスの中で、Web サービスのコンシューマについての情報と妥当なサービス レベル パラメータのセットを所有者に通知するための連絡先情報を交換します。プロバイダとコンシューマはいずれも、Web サービスが SLA 外で運用されている場合に電子メールによる警告とインスタンス メッセージのどちらを受信するかを選択できます。

Microsoft IT は、プロバイダとコンシューマが連絡先情報および SLA パラメータを交換することを含め、開発者が Web サービスを検出およびサブスクライブするときに感じる複雑さを取り除くことが、全社規模の Web サービスを広範に普及させるための不可欠な要因であると認識しました。

開発と展開

開発チームの構成は、プログラム マネージャ 1 名 (工数の 80% を充当)、テスター 4 名 (同、100%)、ソフトウェア開発者 3 名 (うち 2 名が 100%、1 名が 50%) です。このチーム構成で、社内向け Web サービス開発管理ソリューションの各リリースについて、構築、テスト、および展開に 4 か月を費やします。

社内の Web サービスの大半は、Web サービス開発管理ソリューションを使用してサポートしています。その中には、8 つの基幹業務アプリケーション (それらを 15 個のアプリケーションで使用しています) から発行される Web サービスも含まれています。1 日に処理とログ記録が行われるトランザクションの数は、約 120,000 件 (1 か月あたり 360 万件) です。全部で 8 台ある "Alchemy バックエンド" サーバーの平均 CPU 使用率は 7%、平均メモリ使用率は 18% です。

利点

Web サービス開発管理ソリューションによって一貫した Web サービス開発管理フレームワークを展開できたことは、Microsoft IT と各事業部にとって大きな利点でした。

  • 既存の基幹業務アプリケーションのサービスを簡単に、シームレスに統合できました。

  • 展開するサーバー ハードウェアとソフトウェアのリソースを減らし、コストを削減しました。

  • Web サービスの導入と再利用を促進しました。

  • Web サービスのサービス レベル契約を事前に管理できるようになりました。

簡単でシームレスな統合

組織にはアジリティを高め、迅速な対応を行うことがこれまで以上に求められています。Microsoft も例外ではありません。顧客管理、売上、マーケティング、製品開発などの新しいソリューションを作成するときに、短時間で組み替え可能なサービスをすぐに実装できるアプリケーション アーキテクチャを企業は必要としています。

Microsoft IT の社内向け Web サービス開発管理ソリューションを使用すると、一般的な Web サービスを 4 ~ 6 週間で構築して展開できます。基本的な Web サービス標準のみを使用して同等の機能を展開するには 4 ~ 6 か月の期間が必要です。あるプロジェクトでは、カスタム開発のコストを 20% 弱削減することに成功しました。

サーバーの展開とそれに伴うコストの削減

Microsoft IT が Web サービスの展開に乗り出した当初は、それぞれの基幹業務アプリケーションを基本的な Web サービスでサポートするために、個別のサーバー環境を展開する必要がありました。

Web サービス開発管理ソリューションの運用後は、1 台のサーバーで複数の Web サービスを展開および管理できるようになりました。しかも、サーバー ファーム構成の大小を問いません。必要なサーバー ハードウェアとソフトウェアが減少したことで、サーバーの運用を管理するために必要なスタッフの総数やコストも減少しました。以前は Web サービスをサポートするスタッフが各基幹業務アプリケーションにつき平均で 1 名ずつ必要でしたが、最終的には、2 名のフルタイムの運用スタッフで全社の管理を担当するようになりました。

Web サービス管理の観点からいえば、Microsoft で展開されているすべての Web サービスは、8 台の "Alchemy バックエンド" サーバーで構成される単一のネットワークでサポートされています。アプリケーションの相互接続によるシステムで同等の冗長性とパフォーマンスを再現する場合、サーバーが 80 台必要でしょう。10 倍の増設です。

リソースが減少したことと管理手法が改善されたことで、コスト削減とビジネス ユーザーの可用時間の延長を両立しました。

Web サービスの導入と再利用の促進

Web サービスを管理するためのサブスクリプション プロセスが自動化されたことで、コストを削減し、共通の業務サービスの導入と再利用が促進されました。Microsoft では自動化の結果、Web サービスをサブスクライブするための処理時間が 1 週間から 1 日に短縮されました。

サービス レベル契約の事前管理

Microsoft IT の 社内向け Web サービス開発管理ソリューションを使用することで、標準の監視、ログ記録、分析、報告および警告の機能が提供され、サービス レベル契約を事前に運用管理し、実質的に実施できます。Web サービスのプロバイダとコンシューマは、応答時間が長い、"サーバーがダウンした" 状況など、契約外のサーバー レベルを監視、測定、管理するために必要なツールをこれらの機能により使用できるようになります。このようなツールは、実稼動可能な品質の全社規模の Web サービス管理ソリューションを展開する場合に欠かせません。

得られた教訓

サービス指向アーキテクチャの導入

サービス指向アーキテクチャでは、アプリケーションは相互作用と連携をもたらすサービスとして構造化されます。SOA モデルを採用することで、アプリケーションが事業の変化に対し、予測可能な結果ですぐに対応できるようになることがわかりました。

サービス指向アーキテクチャを採用すると、変更や他のアプリケーションとの統合が困難で、重複する機能や互換性のない機能が含まれがちな単体のアプリケーションを構築することを避けられます。

サービス指向アーキテクチャの展開と運用を成功させるには、実稼動可能な品質の Web サービス管理ソリューションが欠かせないこともわかりました。

管理機構の価値

堅牢さと柔軟性を兼ね備えたサービス指向アーキテクチャを構築するときは、Web サービスの標準と仕様に準拠する必要があります。Microsoft IT は、中央の IT グループと主要な基幹業務アプリケーションの所有者の代表者を含んだ社内の Web サービス管理機構の設置を進めています。この機構は、事業部と中央の IT 組織のパイプ役として機能します。また、Web サービスの設計、展開、および管理に関連する機構として、IT 関連の事業戦略、技術戦略、およびアーキテクチャを担当する計画です。

すぐ使用できるツールとフレームワーク

すぐ使用できるツールとフレームワークを用意すると、標準に準拠した Web サービスを短時間で開発できます。一例として、Microsoft Visual Studio® .NET、Microsoft .NET Framework、Web Services Enhancements (WSE) for Microsoft .NET、Microsoft® Windows® Server 2003 などがあります。

Microsoft IT は過去の Web サービスの開発経験を踏まえ、Microsoft の顧客やパートナーが使用できる開発テクノロジを使用して、Web サービス管理開発ソリューションを 4 か月という比較的短い期間でリリースしました。

基幹業務アプリケーションの所有者に Web サービスを一任

Web サービスの管理機構が策定した戦略、アーキテクチャおよびガイドラインの枠内で、各基幹業務アプリケーションの Web サービスの構築を各アプリケーションの所有者に任せます。特定の基幹業務アプリケーションの機能およびデータを Web サービスの間で再利用する方法について最も詳しい人物は、ほとんどの場合アプリケーションの所有者です。すべての Web サービスは、実稼動可能な品質の共通の Web サービス管理ソリューションを使用して展開および管理します。

今後の方向

Microsoft IT の社内向け Web サービス開発管理ソリューションは、次回のリリースで Dynamic Systems Initiative (DSI)、Microsoft Enterprise Instrumentation Framework (EIF)、Web Services for Management eXtensions (WMX) のサポートを盛り込みます。

Dynamic Systems Initiative

DSI によりアプリケーション開発と IT 運用を近接させ、業務システムの監視と管理を自動化することでコストを削減します。Microsoft IT の社内向け Web サービス開発管理ソリューションでサポートする Web サービスを、DSI を導入して分散コンピューティングで管理できるようにします。

DSI アーキテクチャの始まりとなる 2 つのサーバー コンポーネント Microsoft System Management Server (SMS) 2003 および Microsoft Operations Manager (MOM) 2004 をサポートすることで、社内向け Web サービス管理ソリューションに DSI を実装します。DSI 対応の Web サービスは、Visual Studio .NET の新バージョン Visual Studio .NET 2005 のアプリケーションから提供される Systems Definition Model (SDM) 情報を認識します。

Microsoft Enterprise Instrumentation Framework

EIF を使用すると、.NET Framework を基に構築されたエンタープライズ アプリケーションの実稼働環境での管理性能を計測できます。EIF には拡張可能なイベント スキーマと統一的な API が用意されていて、WMI、Windows イベント ログ、Windows イベント トレースなど、Windows に組み込まれた既存のエラー処理、ログ記録、およびトレースのメカニズムを利用できます。EIF で計測したアプリケーションは、エラー、警告、監査、診断イベント、および業種別のイベントについて、さまざまな領域の情報を公開できます。また、Enterprise Instrumentation Framework を使用すると、ビジネス プロセスやアプリケーション サービスによるトレースを有効にしたり、特定のプロセスやサービスの平均実行時間などの統計を取ったりすることができます。

Microsoft IT の社内向け Web サービス開発管理ソリューションでは現在、Web サービス内でのユーザー定義の計測をサポートしています。計測データは SOAP トランザクションによってグローバル トランザクション ストア (GTS) に送信されます。次回のリリースでは、EIF スキーマと API のサポートを実装して、利用できる計測データを増やします。

Web Services for Management eXtensions

次回のリリースでは、Distributed Management Task Force (DMTF) WMX プロトコルの仕様を採用し、ワイヤレベルの管理プロトコルを標準化します。WMX はエンドツーエンドのサーバー管理を行うためのフレームワークを提供します。WMX は、一般の Web サービスの仕様の上位層に位置する、SOAP ベースの汎用システム管理プロトコルです。

その中核は、一般的なシステム管理作業をサポートするように設計された少数の固定的な操作です。WMX プロトコルは XML、SOAP、および Web サービスの最新仕様に準拠していますが、それらの仕様に新しい考え方を導入することはありません。それだけでなく、管理運用をサポートする既存の構成要素を連結します。このプロトコルと運用環境は単純であるため、主要なオペレーティング システムだけでなく小規模デバイスにも実装できます。

WMX は Web サービス仕様 WS-* ファミリの一員です。Microsoft IT の社内向け Web サービス開発管理ソリューションでは現在、Web サービスの仕様 WS-Security、WS-Policy、WS-SecurityPolicy、WS-Trust、WS-SecureConversation、および WS-Addressing の Web Services Enhancements for Microsoft .NET (WSE) での実装を使用しています。WMX により、WS-Transfer、WS-Enumeration、WS-Eventing、および WS-ShellExecute も WSE のサポート対象になります。

まとめ

Microsoft IT の社内向け Web サービス開発管理ソリューションは全社的に使用状況が伸び続け、アジリティのあるサービス指向アーキテクチャを実現しています。この新しい Web サービス開発管理ソリューションを基にして Web サービスを構築、展開、および使用するグループは 15 を超えています。管理、統合、および運用管理のコストが縮小を続け、業務能力が高まっています。

Microsoft IT の Web サービス開発管理ソリューションの次期バージョンが、WSE を使用して開発されています。このバージョンの主要機能を以下に示します。

  • "ポイントしてクリックする" 開発モデルを使用した短時間での Web サービス開発

  • Active Directory セキュリティ グループとの緊密な統合 (ネイティブの "Alchemy バックエンド" セキュリティ グループからの変更)

  • DSI、EIF、および WMX をサポートする堅牢な管理サービス

Microsoft IT の Web サービス開発管理ソリューションは、Microsoft .NET Framework および Web Services Enhancements for Microsoft .NET に実装された Web サービスの標準と仕様に準拠します。Microsoft IT は以上のようにして、Web サービス開発管理ソリューションを現在のテクノロジで構築および展開し、同時に将来の Web サービス標準に基づく環境とも相互運用することを可能にしました。

詳細情報

Web サービス

Microsoft Dynamic Systems Initiative

追加情報

Microsoft 製品またはサービスの詳細については、Microsoft Sales Information Center、(800) 426-9400 (アメリカ国内)、Microsoft Canada Information Centre、(800) 563-9048 (カナダ国内) にお問い合わせください。米国 50 州とカナダ以外のお客様は、最寄りの Microsoft オフィスまでご連絡ください。World Wide Web 上の情報については、次のアドレスにアクセスしてください。

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状況

基幹業務システムは、独立した単体のシステムとして設計および構築されていることが多く、そのため組織内のビジネス情報の共有は困難で、時間と費用もかさみました。Microsoft では Web サービスの開発、展開、および管理を容易にする、全社規模の Web サービス管理ソリューションの必要性を認識しました。

ソリューション

Microsoft Information Technology グループは社内向け Web サービス管理開発ソリューションを開発および展開し、それにより Microsoft のすべての基幹業務アプリケーションの Web サービスを管理するための実運用可能な品質で、安全な企業インフラストラクチャを整備しました。

利点

  • アプリケーション データやサービスを簡単に、シームレスに統合できました。統合コストは 4 分の 1 に削減されました。

  • 展開するサーバー ハードウェアとソフトウェアのリソース数を減らし、展開と運用管理のコストを 10 分の 1 に削減しました。

  • サービス レベル契約を事前に管理しておくことで、可用性が高まり、サービスに問題があった場合の対応も迅速になりました。

製品とテクノロジ

  • Microsoft Windows® Server 2003

  • Microsoft SQL Server™ 2000

  • Microsoft Visual Studio® .NET 2003

  • Microsoft .NET Framework 1.1

  • Web Services Enhancements (WSE) for Microsoft .NET