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Windows 秘話: ブランドに敬意を払う

Windows 95 の 10K Program のチームは、Windows 95 を普及させるため (そして厄介な IT 担当者に静かにしてもらうため) に企業を訪問していました。

Raymond Chen

マイクロソフトでは、Windows 95 の開発中に 10K Program というプログラムを実施しました。このプログラムでは、Windows 95 チームの選抜メンバーがさまざまな大企業を訪問しました。

このプログラムの目的は、当時開発中であった Windows 95 を大企業の IT 部門に紹介することでした。チームのメンバーは、新機能をお披露目したり、この OS で従業員の生産性がどのように向上するかについてデモを行ったりしました。おそらく、より重要な目的は、Windows チームのメンバーが、IT 部門が組織内で Windows 95 を展開および管理しやすくする改良方法を突き止めることでした。

10K Program のメンバーは、会議やプレゼンテーションを行う代わりに、実用性の高い形式を取り入れました。Windows 95 は、パイロット プログラムとして位置付けられていました。各企業の IT 部門では、プログラムに参加する従業員を選抜してメンバーの訪問に備えました。10K Program のチームは、段階を踏みながら各従業員のコンピューターに Windows 95 をインストールし、その後コンピューターを起動して動作を確認しました。

確認していた動作は、企業ネットワークへのアクセスは維持されているか、企業所有の基幹業務 (LOB) ソフトウェアが機能しているか、企業の予算報告書を印刷できるか、Windows 95 によってカラー プリンターの検索や構成が簡略化されたか、ということです。

10K Program のチームは、現場に数日間滞在して初期展開をサポートし、新しい OS の展開が完了したときにテスト対象項目を観察しました。その後は、インストール CD を何枚か残して、現場からチームがいなくなった後も IT 部門がテスト範囲を拡張できるようにしました。

ペプシコーラではなく、コカコーラを

このようなオンサイトを訪問する人員として選ばれることは、きわめて特権的なことだと見なされていました。オフィスを出てちょっとした旅行ができるだけでなく、長い間、熱心に取り組んできたプロジェクトについて、実際の顧客と話をする時間を持てるためです。10K Program のメンバーは、企業を訪問した後も定期的に追跡調査を行い、ユーザーがさらに長い時間 OS を使用した後の OS に対するフィードバックと IT 部門が組織内で OS のテスト範囲を広げた後の OS に対するフィードバックを受け取っていました。

ご想像のとおり、Windows 95 チームは、このようなオンサイトの訪問によって非常に価値のあるフィードバックを得ることができました。あらゆる種類の珍しいハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、およびプリンター構成について学習し、ユーザーが日常業務でどのように Windows を使用しているかを知ることができました。また、訪問先の企業の業務プロセスを観察しながら、チーム メンバーが簡単なヒントやテクニック (多くの場合は、"ドキュメントを印刷する場合は、ツールバーの [印刷] アイコンをクリックする" といった基本的なショートカット) を従業員に伝える場面も見られました。

10K という名前は、このプログラムを通じて 10,000 台のコンピューターを Windows 95 にアップグレードするという表向きの目標に由来しています。この目標が実際に達成されたかどうかはわかりませんが、10,000 という数字は単なるプログラム名の一部にすぎません。プログラムの目的は、10,000 台のコンピューターをアップグレードするという目標を達成することではなく、IT 部門に Windows 95 を紹介して貴重な情報を持ち帰ることであり、10,000 という数字はほとんど無作為に選ばれたものに過ぎませんでした。

Coca-Cola 社は、10K Program の訪問先の 1 つでした。10K Program のチームは、IT 部門の代表者に出迎えられ、ロビーを抜け、廊下を通り、エレベーターを上がって、用意されているラボ室に到着するまで談笑していました。IT 担当者の 1 人は、これ見よがしに OS/2 の CD を見せて、「あれの PC にも、この PC にも OS/2 を搭載しています。このことについてはどう思いますか。あのことについてはどう対応しますか」と、10K Program チームに挑んできました。

最終的に、10K Program のチーム リーダーが丁重に次のような提案をしました。「取引をしませんか。あなたが OS/2 について話さなければ、私もペプシコーラについて話すことは控えます」それ以降、Coca-Cola 社の訪問中に OS/2 やペプシコーラの話が出ることはありませんでした。

Raymond Chen

Raymond Chen は自分の Web サイト「The Old New Thing」および同じタイトルの書籍 (Addison-Wesley、2007 年) で、Windows の歴史、Win32 プログラミング、およびコンピューター プログラマーとファッション モデルの共通点について扱っています。

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