トラブルシューティング 201: 適切な質問をする

効果的なトラブルシューティングを行うためには、判断と熟考、分析と行動において、多方面にわたる作業が必要になります。

Stephanie Krieger

トラブルシューティングの対象がハードウェアとソフトウェアのどちらでも、次に示す 2 つの規則が必ず適用されます。

  • トラブルシューティングとは、消去のプロセスである
  • 最も重要な推測は、どれほどテクノロジに関する知識があっても自分が間違っている可能性はあるということである

1 つ目の規則が当然だと思われるなら、トラブルシューティング (または、あらゆる問題解決のプロセス) は、確実に消去のプロセスだと考えてください。しかし、話はそれほど単純ではありません。

トラブルシューティングが成功するか失敗するかは、何を消去するかによって決まり、そしてもっと重要なのが、"消去する理由" です。これは、Pick Up Sticks (多くの棒を、束ねた後ばらばらにして、その状態から棒を 1 本ずつ慎重に取っていくゲーム) のようなもので、何も壊すことなく、問題の解決に役立つ障害物を評価、判断、消去していきます。こうした選択をどのように行うのかは、何を質問して、その答えをどう解釈するかによって完全に異なってきます。

2 つ目の規則に関して言うと、質問の対象が人間、ドキュメント、ハードウェア、ソフトウェア パッケージ、ネットワーク インフラストラクチャでも、質問の内容やその答えの解釈は、何を推測するかによって異なってきます。どれだけ経験があっても、自分が間違っている可能性があると考えることで、想像もしなかったような簡単な解決策に目が向けられるような広い視野を持ち続けることができます。

この記事では、技術的な問題のトラブルシューティングを行っているときに陥りがちな落とし穴について解説します。また、どんなときにも、簡単かつ効果的な解決策にたどり着く質問をするためのヒントもご紹介します。

解決できた理由がわからない場合は、解決したことにならない

Word 文書のトラブルシューティングのトレーニング コースの講師をしているとき、長い文書で何の理由もなしにセクション区切りの種類が不規則に変更されるという、Word のバグに詳しい人はいるかどうか聞いてみました。受講者たちは、このバグには悩まされていると答えましたが、1 人の受講者が解決策を見つけたと答えました。

ご想像のとおり、私はうそを付きました。実のところ、そんなバグはありません。セクションの開始の種類は、誤解されることが多い機能です。実行されることには何かしら根拠があり、不規則ではまったくありません。このため、おわかりだと思いますが、受講生が編み出した解決策は理想的なものではありませんでした。

受講生は、なぜ解決できたのかはわからないが、だいたいこの方法で解決できると言ってから、解決策について説明しました。その受講生は、変更されたセクション区切りの前後に、[次のページから開始] セクション区切りをいくつか追加することを推奨しました。それから、それらのセクション区切りを、必要な種類のセクション区切りが残るまで、1 つずつ削除すると言いました (望ましい結果を得られなかった場合は、操作を元に戻すそうです)。

この Word の機能に詳しくなくても、トラブルシューティングを行う場合は、これが実行可能な解決策ではないことを知っておく必要があります。理由は、次のとおりです。

  • 解決できた理由がわからない場合、問題はおそらく解決できていません。偶然解決できただけで、その場しのぎの方法は解決とは言えません。
  • 解決策が一貫して機能しない場合は、おそらくまったく機能していません。
  • トラブルシューティングの対象がソフトウェアとハードウェアのどちらでも、コンピューター テクノロジはロジックに根ざしています。問題の解決方法が、リアリティ番組のチャレンジのように、規則性がなかったり、非常にわかりにくかったりするように思えたら、おそらくもっと良い方法があります。この場合は、簡単で一貫性のある解決策が他にあります。必要な作業は、あるダイアログ ボックスの設定を変更するだけです (詳細については、この記事の最後で説明します)。

問題の効果的な解決への道筋は、トラブルシューティングの実行者が、動作を理解できないためにそれをバグであると推測したときに失われます。受講者は、簡単で論理的な解決策ではなく、その場しのぎの方法を探しました。

理解できない不快なことが起こったら、ソフトウェアやハードウェアを非難するのはユーザーにとって普通で、当然のことです。ですが、トラブルシューティングの実行者が同じ振る舞いをすると、トラブルシューティングは、ほぼ確実に失敗します。

トラブルシューティングの作業は、答えがまだわからないときに始まります。なぜ壊れたのかを把握しなければ、直すことはできません。それでは、壊れた経緯がわからないのに、壊れた理由を知るにはどうすればよいでしょうか。まずは情報を集めましょう。つまり、ユーザーとテクノロジ自体に質問をします。

たずねて、絞り込み、確認する

この 3 段階のトラブルシューティングへのアプローチは、簡単かつ効果的です。1 つ例を挙げます。ある大企業で、ネットワークのトラブルシューティングの実行者が、ある社内アプリケーションにログインできないユーザーと話していました。このユーザーは、ヘルプ デスクに問い合わせて、ログイン資格情報を要求しました。その際、このユーザーは、この社内アプリケーションには全社員がログインできるはずだということを知りました。

  • たずねる: トラブルシューティングの実行者は、基本的な質問をして、ユーザーがリモートで作業をしていたことを特定しました。ですが、ユーザーは、他の社内アプリケーションと同様に、イントラネット サイトとエクストラネット サイトの両方にアクセスすることが可能です。すべてが正常に機能しているように思われ、また、ユーザーは接続に関する問題を経験したことがありませんでした。
  • 絞り込む: トラブルシューティングの実行者は、問題となっているアプリケーションについては詳しくないので、自分の専門分野である "ネットワーク" から考え始めました。ユーザーが、他のアプリケーションにはログインでき、リモートで作業していたという事実に基づき、トラブルシューティングの実行者は、接続に関する何かが発生して、それがこのアプリケーションの問題になったと推測しました。トラブルシューティングの実行者は、アプリケーションのシステム要件を調べ、ユーザーのコンピューターにリモート接続しました。
  • 検証する: リモート接続すると、トラブルシューティングの実行者は、狙いをつけていたネットワーク設定が問題を引き起こしている可能性があることを特定しました。その設定を変更すると、ユーザーはログインできるようになりましたが、このままにはせず、ユーザーに他のアプリケーションやサイトに接続できるかどうかを確認してもらいました。この結果、設定を変更したことにより、特定の Web サイトにアクセスできなくなったことが判明しました。今度は同じ設定に別の変更を加えて、その他の接続が妨害されずにユーザーがログインできるようにしました。

このトラブルシューティングの実行者が踏んだ手順は、先ほどの Word 文書のシナリオにも簡単に適用できます。どこが悪いのかわからなかったら、知っているところから始めましょう。

ユーザーと話をするときは、ユーザーの話に耳を傾けて、提供される情報を尊重しましょう。答えを解釈するのに必要な、関連する知識はすべて使います。ネットワークに関する問題の事例では、それまでに接続の問題が発生したことがなかったので、接続は問題ではないとユーザーは推測していました。実際、トラブルシューティングの実行者は、彼の質問の答えによって、接続について確認する必要があると判断しました。

優れたトラブルシューティングの実行者は、与えられた情報を自分の知識に照らし合わせて、行動に移す前に直感が正当かどうかを必ず確認します。たとえば、このトラブルシューティングの実行者は、ユーザーのコンピューターに接続する前に、問題となっているアプリケーションのシステム要件を調べました。

同様に、この記事の最初のシナリオのトラブルシューティングを行っていて、Word のセクション区切りについて詳しくない場合は、Word のヘルプ機能を使用して、セクション区切りがどのような機能で、なぜ使用されるのかを知りましょう。こうすることで、セクション区切りの動作を理解し始めることができます。

正当ではないやり方も使いましょう。対応しなければならない問題の専門家ではなかったら、精通しているテクノロジをトラブルシューティングする際のアプローチで使うのと同じロジックで、その問題にもアプローチします。つまり、ユーザーのコンピューターに接続して、自分になじみのある方法でテクノロジを操作します。物事を明確にとらえ、簡単に開始し、可能性を絞ることができる具体的な情報を探しましょう。

たとえば、セクション区切りをダブルクリックして、何が起こるかを確認します。セクション区切りをダブルクリックすると、[ページ設定] ダイアログ ボックスが開きます。これは、セクションの開始位置など、さまざまな関連機能を設定できるダイアログ ボックスなので、真の解決策の発見にかなり近づきました。

何事も慎重にいきましょう。答えがわかったと思ったら、それを試してみます。別の箇所に悪影響を及ぼすことなく、問題を解決するようにしましょう。その解決策によって、問題が一貫して解決されることを確認します。そして、一番重要なのが、解決できた理由を理解することです。これを理解しないことには、きちんと解決できたとは言い切れません。

広い視野で簡単な解決策を探す

Microsoft Word 文書のトラブルシューティングの例をもう 1 つ紹介しましょう。トラブルシューティングの実行者は、頻繁にクラッシュする文書を受け取りました。実行者は Word の開いて修復機能を使用して、文書を開くことから始めました。

開いて修復機能によって、文書に破損した図形が含まれていることがわかりました。ところが、埋め込まれた画像が見当たりません。開いて修復機能が誤った情報を提供しているのでしょうか。いいえ、開いて修復機能はまったく間違っていません。細部を見ていくと、現在表示されていないヘッダーと同じように、図形も表示されていないことがわかりました (この問題のトラブルシューティングの詳細については、この記事の最後にある「補足記事」をご覧ください)。

(先ほどのネットワークのシナリオと同じように) ユーザーに直接たずねる場合も、このようにテクノロジ自体にたずねる場合も、受け取った情報を信頼し、自分の知識に基づいて解釈しましょう。

適切な質問をするのに役立つものは、問題が発生している領域の専門的な知識以外にありません。ですが、IT プロフェッショナルの場合、新しいスキルの習得は、ほとんどの仕事に欠かせません。

優れたトラブルシューティングのスキルは不変かつ不可欠で、技術的な知識とはまったく異なるものです。優れたトラブルシューティングとは、可能性を効果的に絞り込むために具体的な手順を踏めるようロジックを適用することです。また、簡単な解決策を導き出せるように、広い視野を保ち、関連するすべての知識 (役立つ情報を見つける方法や、問題を調べる方法など) を総動員することでもあります。

ユーザーに、新しいハードウェアの購入、ソフトウェアの再インストール、最初から文書を作成し直すことを勧める前に、複雑な答えが返ってきた場合は適切な質問ができていなかったかもしれないという、一番高い可能性について考えてみましょう。

 

補足記事: 賢明な解決策

Word のセクション区切りに関する問題の解決策

セクション区切りの種類が変更された原因は、隣接するセクション区切りをユーザーが削除したことです。セクション区切りは、そのセクション区切りの前のセクションの書式設定を保持していますが、[次のページから開始] や [現在の位置から開始] などの区切りの種類は、次のセクションがどのように開始するかを指定するものです。

セクション区切りの種類を変更するには、該当セクション区切りの後に続くセクション内をクリックします。それから、リボンの [ページ レイアウト] タブの [ページ設定] グループで、ダイアログ ボックス起動ツールをクリックします。[ページ設定] ダイアログ ボックスの [その他] タブで、[セクションの開始位置] の値を変更します。

この解決策が機能しない唯一の例は、セクションで特定のセクション区切りの種類が必要な場合です。たとえば、ページ方向が異なるセクション間では、[現在の位置から開始] のセクション区切りは使えません。1 枚の紙で、ページの向きを縦と横の両方にすることはできないからです。

Word の開いて修復機能に関する問題の解決策

開いて修復の機能で、何かが誤っていることが示されても、該当箇所がわからない場合に、問題を見つける簡単な方法の 1 つは、Microsoft Visual Basic for Applications (VBA) を使用することです。単純な VBA をいくつか簡単に学ぶだけなら、プログラマほどの知識は必要ありません。簡単な VBA は、Microsoft Office 文書のトラブルシューティングを行うときの必需品となるでしょう。

役立つ詳細情報については、MSDN ライブラリの記事「VBA を使用して、Word 2007 文書のトラブルシューティングをより簡単に実行する (英語)」を参照してください。この記事は Word 2007 を対象としていますが、Word 2010 にも適用できます。

Stephanie Krieger

Stephanie Krieger は、Microsoft Office の MVP であり、『Advanced Microsoft Office Documents 2007 Edition Inside Out』(Microsoft Press、2007 年) および『Microsoft Office Document Designer』(Microsoft Press、2004 年) の著者でもあります。また、マイクロソフトの Web サイトで、コンテンツの執筆や作成も行っています。Microsoft Office を使用するうえでのヒントや、新しい書籍や発売予定の書籍の情報については、彼女のブログ Arouet Dot Net (英語) を参照してください。

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