特別レポート: IT ワーカーの給与調査

景気は今後回復するのか

毎年 Redmond Magazine が行っている給与調査は今年で 15 回目を迎えますが、IT ワーカーの給与は全体的に横ばいでした。昇給したという回答もあったので、来年の給与については楽観的な見方ができるかもしれません。

Michael Domingo

景気後退により、米国では、労働者全体の給与と仕事に大きなダメージがあり、例に漏れず IT ワーカーもこの影響を受けました。ですから、第 15 回目の Redmond Magazine の給与調査において、IT ワーカーの給与が下がっていなかったことは、朗報だったかもしれません。楽観的に見ると、2010 年の平均給与は、2009 年の全平均である 83,113 ドルから 536 ドル (0.63%) 上がり、83,638 ドルになりました (表 1 参照)。すごい上昇率ではありませんが、なかなかのものです。

モンタナ州にある政府系医療機関でネットワーク管理者を務めている Russell Young 氏は「たとえわずかでも、給与が上がったことに関して驚きはありません。特に医療系の分野において、IT をもっと効率的に利用することを政府が強力に後押ししたため、これまでにないくらい IT スキルへの需要が高まっています」と語っています。

オレゴン州レドモンドにある非営利機関でシステム管理者を務めている Michael Hensley 氏は、Redmond Magazine の読者 James A. 氏の意見に賛同しています。「給与が上がったのは、おそらく企業が雇用人数を減らし、現従業員の力をもっと活用しようとしているためです。給与が高いほど仕事への定着率が高まり、生産性の高い従業員を確保できます」。[注: この記事では何人かの回答者に言及していますが、回答者の匿名性を維持するため、名前のみ記載し、苗字は頭文字にします]

James A. 氏と Hensley 氏の意見に同意している人はこれだけではありません。この調査を終えてから数週間のうちに、調査対象の回答者から、同じような意見が数多く寄せられました。最近発行された外部の資料でも、依然として就職難なのにもかかわらず IT ワーカーの給与は上昇傾向にあることが示されており、ここからも彼らの所見に確証があることがわかりました。

Janco Associates Inc. が 6 月に公開した IT ワーカーの給与調査の結果によると、給与はわずかに上昇しているが、ほぼ横ばいであるとのことです。大企業の IT の役員の給与は 0.97% 増加しましたが、中規模の企業では 0.75% 下がっているため、全体では 0.21% 増えたことになります。Janco の調査では、来年の雇用は少なくなると予想されています。

米国労働局のデータによると、IT 関連の仕事は、2008 ~ 2018 年の間は、年間 28,660 件のペースで増加するとのことです。コンピューターに関連する仕事の前年比のデータと比較すると、増加件数は低いですが、労働局はこの数字を一般的な労働者と比較し「平均よりも高い」と見なしています。

楽観的見方の高まり

給与が昨年よりも 7.9% 上昇したため、2010 年の調査結果は、悲惨だった 2009 年の結果とはまったく異なります。シアトルに本社を置く、中小企業 (SMB) 向けの IT サービス プロバイダーである TEChange Inc. の代表取締役 Bill O'Reilly 氏は「現時点では、昨年よりも売り上げが少なくなっており、ビジネスは停滞しているように思われます。経済指標がどうであるかにかかわらず、ビジネスは、今年の動向を静観している状態です」と語っています。

生活費手当を調整したり、またはそれ以上のことを行ったりしている企業もあるので、その恩恵にあずかれた幸運な回答者もいます。「給与が 3% 上がりました」と語るのは、シカゴの鉄道車両管理会社 TTX で IT インフラストラクチャの部長を務めている Rob Zelinka 氏です。彼は「嬉しいと同時に驚きました」と付け加えました。私たちは調査対象の読者から同じ話を何度も聞きました。

表 2 は、給与の範囲に基づいて IT ワーカーの割合を出したもので、昨年ほどひどくはありません。低所得層の 20,000 ~ 40,000 ドルのワーカーと、高所得層の 95,000 ドル以上のワーカーは、前年に比べると大幅に増加しています。一方で、給与が 40,000 ~ 75,000 ドルのワーカーは、2009 年よりも減っています。同様に、給与が 70,000 ~ 74,999 ドル、および 85,000 ~ 95,000 ドルのワーカーは、昨年に比べて 15% 減少しています。

給与に関しては深刻な 1 年でしたが、回答者は、総じて利益と損失のバランスがかなり取れていると感じているようです。今年は、回答者に、給与が去年の水準に達したかどうか質問しました。平均では、損失額による悪影響によって明らかに利益は相殺されているにもかかわらず、不思議なことに、半分以上が昇給したと答え、減給されたと感じているのは回答者の 11.7% のみでした (残りの回答者は、給与に変動はないと答えました)。

56% 以上の回答者は、この楽観的な見方が、この先 1 年の昇給につながると期待しています。O'Reilly 氏は「この傾向はおそらく続くでしょう。少なくとも、生活費手当は上がると思います。これがどのくらい続くかは、だれにもわかりません」と語っています。

シアトルで IT 管理者を務めている Kevin F. 氏は「有能な IT ワーカーが不足しているため、高給の IT ワーカーが減り、その需要が高まっているのだと思います。末端の仕事は外部に委託されることになるでしょうが、IT をビジネスと真に連携させられるワーカーに委託するのは非常に困難です」と語っています。

約 40% の回答者が、給与はまったく変わらないと予想しています。そして、5% は、ニューヨークのメディア企業で管理情報システムの部長を務めている Richard R. 氏と同じように、雇用状況やその他のさまざまな要因により、今後も給与の上昇には歯止めがかけられると予想しています。

昇給した人と今後昇給する人

給与に関しては深刻な 1 年であり、昇給によって朗報があることは期待していませんでした。どちらかというと、昇給は朗報と悲報が入り交ざったものでした。まずは、昇給に関する悲報からいきましょう。回答者の 40.3%、つまり昨年より 13.5% 多くの回答者が、昇給しなかったと答えました。

Hensley 氏は「実は、今年は昇給することを期待していました。昇給しなかった要因は不景気でした」と答えています。

カリフォルニア州の Monterey Peninsula College で IT サポート技術者を務めている Helmut Schonwalder 氏は、正当な理由から昇給をまったく期待していませんでした。「州の財政は依然として危機的な状態にあるので、大学職員にとって昇給はあまり期待できるものではありません」と語っています。

それでは、朗報は何でしょうか。減給したと答えたのは、回答者の 7.4% (昨年より約 18% 減) だけでした。さらに良いことに、昇給したと答えた回答者の平均昇給額は 2,263 ドルで、昨年の結果よりも 44% 高くなっています。

シカゴ在住の Zelinka 氏は「私はチームの重要なメンバーと見なされているので昇給しました」と言います。そして、バージニア州の連邦政府で IT プロフェッショナルとして働いている D.Y. 氏は、3% 昇給したことを「働けるだけでも十分幸せです」と総括しています。

表 3 の結果は、昇給額のほとんどが 10,000 ドル以下で、昨年とあまり変わらないことを示しています。また、回答者に来年の昇給についての感触をたずねてみたところ、予想外の反応が返ってきました。昇給しないと答えたのは回答者の 32% だったのに対し、減給を予想しているのはたったの 3% です。このような数値を見ると、回答者は近い将来朗報があると予想していることがわかります。

ボーナス

昨年よりも昇給額は上がっていましたが、ボーナスの金額は下がりました (表 4 参照)。54% 以上の回答者が、今年はボーナスが出なかったと答えました。これは、前年同期に比べて 2 ポイント悪くなっています。半分以上の回答者が、ボーナスは企業の業績、または業績と個人の功績に基づいて支払われていると答えました。したがって、不景気が企業の業績に影響をもたらしているため、ボーナスを支給する企業が少なくなったといえます。

支給されたボーナスの金額は、ほとんどが 1,000 ~ 5,000 ドルです。ニュージャージー州の保険会社でネットワーク管理者を務めている Tim Davis 氏は、昇給はしなかったがボーナスが支給されたと答えた、数少ない回答者のうちの 1 人です。

回答者は、この先 1 年、ボーナスに関してはあまり変わりがないと予測しています。

お勧めはプログラマ

給与の数字をもう少し詳しく見てみると、また違った状況が明らかになります。職種ごとに給与を見てみると (表 5 参照)、ヘルプ デスクのサポートや、データベースのプログラマの給与が最も上がっており、昨年と比較して約 10% 高くなっています。プログラマ/アナリストは昨年よりも 8.4% 昇給しています。トレーナーの昇給率は最も悪く、2009 年から約 14% も減っています。

実際の手取り額を比較すると、調査対象の回答者のわずか 5.8% を占めるプログラミング プロジェクト リードが、今回も 97,727 ドルでトップになりました。ただし、2009 年は 100,000 ドルを上回っていたのに対し、今年はそれを下回っている点が異なります。回答者を最も多く占めるのは IT 管理者で、36.8% です。IT 管理者の給与の手取り額は、95,584 ドルで昨年と同じく 2 位です。その次が DBA とデータベース開発者で、平均額が 89,165 ドルです (昨年から約 9,000 ドル高くなっています)。

また、職種ごとの給与に在職期間を加えると、別の見方ができます (表 6 参照)。ここでは、期待どおりの結果が得られます。在職期間が長いほど、給与額は上がります。ただし、この規則には例外があり、10 年以上のキャリアがある Web マスター、開発者、プロデューサーの給与は、キャリアが 6 ~ 9 年のワーカーよりも、約 5,000 ドル少なくなっています。

稼げるスキル

表 7 では、技術的知識ごとに給与を分類しています。割合に基づくと、利益によって損失額が相殺され、昨年のこの分野と給与が同じになっていることがわかりました。データベース開発スキルのあるワーカーは、前年同期から平均で 6% (92,460 ドル) 昇給しており、その次に高かったのがハードウェア設計の 4.6% (90,668 ドル) です。Oracle の専門知識があるワーカーは、昨年はトップでしたが、今回は 5.9% (94,555 ドル) 減給しています。その次が Novell の専門知識があるワーカーで、4.9% (79,096 ドル) 減給しています。

エクストラネットの専門知識があるワーカーの平均給与は 100,566 ドルで、100,000 ドル以上をキープしている唯一の分野です。それをわずかに下回っているのが、外部委託のスキルを持つワーカーで、平均給与は 99,740 ドルです (この 2 つの分野は、昨年は 2 位と 3 位でした)。3 位が電子商取引のスキルを持つワーカーで、平均給与は 95,323 ドルです。

優良株

回答者には毎年、専門知識があるマイクロソフト テクノロジについて質問しています。給与額が最も高いのは BizTalk Server の専門知識を持つワーカーで、2009 年よりも 16% 高い 118,625 ドルです。また、Internet Security/Acceleration Server、Project Server、SharePoint Server のスキルを持つワーカーの給与も 100,000 ドルを超えています。ここでは、専門的なスキルの高い回答者は、不景気でも、給与額が最も高い傾向にあることがわかります。

給与以外にも、IT プロフェッショナルの最新の動向を知る方法はあります。この不景気な 1 年を通して、Redmond Magazine と、その他の Redmond Media Group 関連の発行物では、コストの削減、およびリソースの効率と制御に有効なトピックとテクノロジを再び扱うようになりました。

James A. 氏は「仮想化は個人的に一番重要だと思っています。たいへん強力ですが、まだ成長の余地があるテクノロジです」と述べています。

仮想化のスキルを持つワーカーは、給与が 2010 年に 2.4% しか上がっていないにもかかわらず、Zelinka 氏と O'Reilly 氏は、来年に仮想化を行うメリットを模索するつもりだと語っています。

ミズーリ州でシステム管理者を務めている Stan A. 氏は、既に仮想化を行っています。「物理サーバーを VMware vSphere 環境に移行して、クライアントがハードウェア、ライセンス、ユーティリティにかけるコストを減らすことを計画し、実行しました」と語っています。

マイクロソフトは、モバイル コンピューティングにおいて影響力はありません。それでも回答者は、ネットブック、iPad、スマートフォンなどのデバイスへの興味が来年はさらに増すと予測しています。O'Reilly 氏は「モバイル市場の動向は魅力的です」と語っています。

James A. 氏も「ネットブックとスマートフォンは今やあらゆる場所で見られ、タブレット コンピューティングでも、非常に印象的なものが出現する時期に差しかかっていると思います」と語っています。

Schonwalder 氏は、心ひかれる要素があるものとして Google Droid プラットフォームを挙げていますが「遅れないようついて行くにはまだ少し距離があります」と述べています。

従業員の雇用

私たちが実施した調査は内容が濃く、質問の数が 80 個を超えており、回答するのに時間がかかるものでした。給与に関連する質問に加えて、キャリアの問題についての意見も数多くお聞きしました。

今年の調査では、ここ数年と同じように、現在の雇用と雇用の展望を中心とした質問をいくつか用意しました。今は不景気で、IT のみならず労働者全般の雇用数が問題になっているので、この調査で得たデータは、より大きな意味を持っています。

今年の結果はまとまりがなく、回答者の約 32% が IT 関連のスタッフの追加雇用があると予測しているのに対し、46.5% の回答者は "雇用凍結" 状態が続くだろうと答えました。追加雇用があると予測した 32% の回答者の半分は、勤務先で少なくとも 1 人は採用するであろうと答え、10% は、6 ~ 10 人採用する可能性があると答えました。また、雇用に直接携わっていると答えたのは、全回答者の 41% でした。

対照的に、ここ 1 年のうちに解雇されたと答えたのは、たったの 4.3% で、そのうち 36% は 1 か月以内に再就職先を見つけたと答えました。人員削減を間逃れたのは回答者の 37% で、そのうち 45.9% は、勤務先で 1 ~ 5 人が解雇されたと答え、23% が最大で 10 人解雇されたと答えました。

何年も働き続けて

Redmond Magazine の読者についてわかっているのは、企業で IT に関する課題を解決することに大きなやりがいを感じていることです。これこそが、この仕事に長く就いている理由でしょう。回答者のほぼ半分が、IT に 15 年以上携わっていると答え、29% は 10 ~ 14 年携わっていると答えました。

今年の調査で得られたデータにおいて興味深い点は、労働時間です。72% 以上の回答者が、1 週間に 40 時間の標準的な労働時間よりも長く働いていると答えました。そのうち、28% が 1 週間に 1 ~ 5 時間の残業があり、23% が 10 時間の残業があるとのことです。回答者の 20% は 1 週間に 51 時間以上働いており、これは典型的な IT ワーカーの労働時間です。

長い年月と長時間労働など、IT の仕事に苦労しながら携わってきたにもかかわらず、かなり多くの回答者が IT 以外のキャリアについて考えていません。実際、調査の結果によると、回答者の 87% がこの先 5 年間は IT 関連の仕事に携わることを考えています。

高校卒業後ずっと IT に 16 年間携わっている Kevin F. 氏は「一生涯 IT に携わっていくつもりです」と語っています。

ですが、15 年間 IT に携わっている O'Reilly 氏は、自身の長いキャリアに疑問を持ち始めています。「なんらかの形で IT に携われると良いのですが、いろんなものについて行こうとして燃え尽きてしまったことに悩んでいます」と述べています。

Michael Domingo

Michael Domingo は、Redmond Media Group の編集責任者で、Redmond Radio で司会を務めています。彼の連絡先は mdomingo@1105media.com (英語のみ) です。

2010 年度の給与調査の方法

毎年恒例となっている Redmond Magazine 給与調査の第 15 回の回答は、昨年と同じ方法で集められました。独自の調査ソフトを使用して、電子メール アドレスを知っている、紙ベースの Redmond Magazine とオンライン ニュースレターの購読者 40,000 人に電子メールで通知を送りました。

回収した 3,053 件の回答を、2,521 件に絞り込み、それから、特定の給与情報が回答されていないものを削って、有効な回答は最終的に 1,697 件になりました。             

—M.D.

認定に関するデータがない理由

Redmond Magazine は、マイクロソフト認定のプロフェッショナル マガジンで、以前は認定が給与にもたらす影響を広く取り上げていました。ですが、今や Redmond Magazine の読者層の中心は、ネットワーク エンジニアとシステム管理者ではなく、監督や管理者の役割を持つワーカーが中心になっていることを考えると、Redmond Magazine の給与調査で、認定が給与にもたらす影響に関するデータを報告する意味が年々少なくなってきました。

私たちは数年にわたって、読者に、認定がキャリアにどのような影響を及ぼすかたずねてきました。多くの回答者が、認定は「以前は高い給与と関係していたが、現時点では影響は非常に少なくなっています」という、ニューヨーク市で管理情報システム部長を務めている Richard R. 氏の所見と同じように総括しています。在職期間が長くなるにつれ、Redmond Magazine の読者である IT プロフェッショナルのキャリアは、認定が必要な初心者レベルの IT ワーカーから、監督、そして "認定がもはや必要ない" 管理者へと、年々変化していきます。

データにおけるこのギャップを埋めるために、今年の後半、MCPmag.com (英語) が、認定と給与の関連を調査する予定です。MCPmag.com (英語) の購読者の多くは、ネットワーク エンジニアとシステム管理者としてのキャリアがあります。管理者の方は、この調査に注目することをお勧めします。結果によって、従業員が、昇給やボーナスの正当性を示すのにこのデータを使う可能性があるからです。           

—M.D.

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