統合コミュニケーション: Microsoft Lync Server と既存の PBX システムの長所

Lync Server が企業にもたらすメリットを考慮すると、特に従来の PBX が関与している場合、Lync Server をスムーズに展開するためには慎重な計画が必要であることに疑いの余地はありません。

William Van Winkle

これまでの PBX の功績には感謝する必要があります。長い歴史のある PBX は、初期の時代には少数の電話回線に多くの通話をルーティングするだけのシステムでしたが、自動ディレクトリ サービスや follow-me 機能 (ユーザーのいる場所に応じて通話の処理方法を変える機能) から音声メールに至るまで、さまざまな機能を提供するシステムへと非常に大きな進化を遂げました。ですが、今もなお PBX は、いまだ 1990 年代から抜け出せないでいるというのも事実です。

たとえば、PBX の follow-me 機能では、なぜ瞬時にユーザーを検出するのではなく、電話番号のリストを調べなければならないのでしょうか。また、メッセージを確認するためにいちいちダイヤルを回すよりは、音声メッセージがテキストに自動変換されて電子メールで送信される方がずっと便利です。

Microsoft Lync Server 2010 通信ソフトウェアなどの、統合コミュニケーション (UC) プラットフォームは、電話以降の世界における PBX といえます。音声は、Lync Server に期待される、生産性を高める数多くの機能の 1 つに過ぎません。このような機能には、他に次のようなものがあります。

  • プレゼンス: 同僚の状態 (オンライン、通話中、または外出中) を瞬時に確認できます。外出している場合は、どこにいるかがわかります。Lync Server のシニア プロダクト マネージャーである B. J. Haberkorn 氏は、「音声メールは、電話に応答できない場合の救済措置でした。プレゼンスのアイデアは、電話をかける前に、相手が応答できるかどうかを確認できるというものです」と述べています。
  • インスタント メッセージング: 簡単な質問は、音声通話よりも短いインスタント メッセージを使用した方が効率的です。また、Lync Server のユーザーは、コンピューターの画面上にあるものを他のユーザーと簡単に共有できます。
  • ビデオ通話: 実際に握手することにかなうものはありませんが、どこからでもリアルタイムにビデオ会議できる機能は、その場に行くことに代わる非常に手頃な代替案となります。
  • 多彩な共同作業: アドホックなグループのメンバーが、どのような場所からでも、画面上でアイデアを徹底的に論じることができます。
  • スキルの検索: 手持ちの作業に適した人物を見つけて、現在進行中の共同作業にすぐ参加してもらうことができます。

PBX には、このような機能がありません。また Lync Server では、従来の PBX の機能を実行できるだけでなく、PBX よりも 1 人あたりの単価が安く済みます。UC の総合的な価値は、とても魅力的なので、PBX のインフラストラクチャを Lync Server に置き換えようとしている企業もあります。

ところが、インフラストラクチャの移行は現実的な選択肢ではない場合がほとんどです。最近購入した PBX は、システムの原価を完全に償却するまでに数年かかるので、インフラストラクチャを早急に置き換えることを正当化するのは困難です。また、電話の受話器を持ち上げるとダイヤル トーンが聞こえてくることに慣れているユーザーがいまだ多くいる企業は少なくありません。つまり UC への移行パスは、はっきりと定義できるものではないということです。

PBX + Lync = スムーズな移行

メディア ゲートウェイは、企業が所有している PBX と UC システムをつなぐブリッジ機器として動作し、企業が 2 つのテクノロジを同時に実行できるようにします。たとえば、Dialogic 4000 Media Gateways (DMG4000 ゲートウェイ シリーズ) では、最大 120 個のトラフィック チャネルをサポートします。また、Lync Server に組み込まれている、新しい存続可能ブランチ アプライアンス機能を利用することもできます。

多くの場合、本社には、バックアップ用の回線がありますが、支社は概してそうではありません。DMG4000 ゲートウェイなどの機器を通じて実行される存続可能ブランチ アプライアンスによって、企業の WAN 接続が切断されると、VoIP と FAX 通信はローカルの公衆交換電話網を使用するよう即座に切り替わります。これは、従来の PBX ハードウェアを現代の UC システムと併用した場合に、 PBX ハードウェアが、どれだけ有益であるかを表しています。スイッチが使用できなくなったり、だれかが光ファイバーの装置を切断したりしても、企業の通信機能は稼動し続けることができます。

通信プラットフォームのプロバイダーである Dialogic 社でエンタープライズ マーケティング マネージャーを務めている Scott Wooster 氏は、「企業はあまり PBX システムを置き換えることを望んでいません。そのため、いくつかの選択肢の中から選べるハードウェアを PBX システムと接続してメッセージングと通信パスを統合できる Lync Server などのような製品は、企業にとって非常に魅力的になります。まず、長期間にわたるコストの節約が可能になりますが、これはほんの始まりに過ぎません」と語ります。

全世界に約 50 か所の拠点があり、3,400 人以上の従業員を抱えるグローバルな経営コンサルティング会社である A. T. カーニーは、馴染みのある PBX システムを使用しながら、UC の機能をすべて実現したいと考えました。同社は、Microsoft Office、Exchange Server、および SharePoint Server と統合できるという理由で Lync Server (当時は Microsoft Communications Server "14" と呼ばれていました) を UC として選び、これらのプラットフォームで、シームレスなプレゼンスと通信が提供されるようシステムをセットアップしました。

A. T. カーニー社では、ユーザーの大半がモバイル ユーザーである通信スタイルと生産性を完全に見直し、最初の年に 50 万ドルを節約しました。同社の役員は「携帯電話を使用している時間の 10% を Lync Server を使用するようにすれば、その 10% につき 1 年に約 50 ~ 100 万ドルを節約できます」と述べます。

3 つに分かれている Lync Server のクライアント ライセンス構造は、このような節約をするのに役立ちます。Standard CAL では、インスタント メッセージングとプレゼンスを使用する権利が与えられます。Enterprise CAL では、オーディオ、ビデオ、および Web 会議がそれに加わります。Plus CAL では、さらにエンタープライズ クラスの音声通信が加わります (既に PBX を導入している企業は、Plus CAL を購入する必要はありません)。他の UC プラットフォームとは異なり、Lync Server を使用しても、PBX を導入している企業が二重に音声サービスの料金を支払う必要はありません。

管理サービスのプロバイダーである Azaleos 社で製品管理とマーケティング部門の部長を務めている Scott Gode 氏は、「ほとんどの場合、まずは顧客にインスタント メッセージングと会議を使用してもらい、音声は横に置いておきます。これは、CIO が音声通信に関心がないからではなく、仲介サーバーやメディア ゲートウェイを構成せずにインスタント メッセージングを使用する方が簡単に思えるためです。人々は、単にサーバーをセットアップして、多くのメリットを享受したいだけなのです。会議の機能は、2 か月 ~ 1 年くらいの時間をかけて、段階的に導入し始めます。段階的な導入により、テレフォニー統合戦略を理解するための時間を確保できます」と語ります。

入念に計画を練る

Lync Server のあらゆる通信機能を考慮すると、特に従来の PBX が関与している場合、Lync Server をスムーズに展開するためには慎重な計画が必要であることに疑いの余地はありません。ローカル テレフォニーに PBX を使用して、海外支社や海外のクライアントに電話をかける場合には Lync Server のソフトフォンを使用するというのが一般的なシナリオの 1 つです。

専用の WAN 回線は、コンピューターの軽量なデータを転送する場合には問題ありませんが、複数の音声ストリームやビデオ ストリームが急に殺到すると、すぐにデータであふれ返ってしまいます。帯域幅の分析を、展開前と展開後の両方で実行することが、適切なエンドユーザーの UC エクスペリエンスを確保する鍵となります。

Azaleos 社の Scott Gode 氏は、ソフトフォンをあまりにも多く、早急に展開しすぎている企業があることについて次のように触れています。「従業員は、デスクに電話がないと落ち着かない世代とそうでない世代に、明確に分かれます。前者は、受話器の手触りと感覚、そして番号ボタンを欲しがるため、コンピューターに接続するヘッドセットの概念は大きな障害となります」。

これは、複数の段階に分けて導入することが推奨される理由の 1 つです。段階的な導入では、徐々に PBX ユーザーを Lync Server に移行します。まず、新しいテクノロジを受け入れて、他のユーザーに好感触を伝える可能性が最も高い従業員から始めます。このアプローチは、メディア ゲートウェイ ソリューションを用いるよりも低コストで済むこともあります。

存続可能ブランチ アプライアンスへのフェールオーバーなど、メディア ゲートウェイが重要になる例は多くあります。小規模な会社にとって重要なのは、メディア ゲートウェイへの投資の飽和点がどこにあるのかということです。つまり、企業が最終的にエンドツーエンドの UC を導入することになっている場合、次世代のアプローチに飛びついて、ブリッジ製品の使用を省くことは、どのようなタイミングとどのような場合に意味があるのでしょうか。

そのような ROI を計算するのは複雑ですが、マイクロソフトと独立系サード パーティのパートナーと話し合うことが、決定プロセスに役立ちます。マイクロソフトを含め、ほぼすべての企業がこうした移行戦略と格闘しています。

マイクロソフトは、120,000 人の従業員とオンサイトで作業をしているベンダーを抱えています。120,000 人全員が、インスタント メッセージングとプレゼンスを使用できます。マイクロソフト製品が提供する会議機能も全員が使用できます。ところが、音声など、準備した UC の機能をすべて使用しているのは 85,000 人だけです。ここまで来るのには、2 年半かかりました。音声機能を使用していない 35,000 人は、今も PBX 電話を使用しています。

ですので、辛抱強く待ちましょう。展開は段階的に行い、たくさん計画を立て、従業員と積極的にコミュニケーションを取ってください。PBX の時代は終わりに近づいているかもしれませんが、まだ完全に終わったわけではありません。PBX への投資を最大限に活用しながら、将来に向けた準備も並行して行い、Lync Server などの UC システムによって従業員の能力と効率性を高めましょう。

William Van Winkle

William Van Winkle は、以前 Reseller Advocate Magazine の編集長を務めていました。1997 年からフリーランスのテクニカル ライターとして活躍し、PC Magazine、CPU、Smart Computing、Processor、Tom's Hardware などに寄稿しています。彼は、日々テクノロジがもたらす影響について、ブログを書くことを楽しんでいます。米国オレゴン州ポートランドの近郊であるヒルズボロに住んでいます。

補足記事: Lync Server との結合を行うための重要なポイント

  1. PBX と Microsoft Lync Server 2010 などの UC プラットフォームは、相互に排他的ではありません。企業は、新しい通信機能と共同作業機能によってワーカーの効率性を高めながら、既存の投資を活用し続けることができます。
  2. Lync Server を使用しても、PBX を導入している企業が二重に音声サービスの料金を支払う必要はありません。モジュール式のライセンスが用意されているので、ユーザーは、必要なサービスだけを購入できます。
  3. 従来の PBX の装置を使用しながら、Lync Server の段階的な利用が緩やかに進行するのを待ちましょう。これにより、従業員が Lync Server を受け入れやすくなり、また、以前の PBX への投資を完全に償却することが可能になります。また、IT 部門と管理部門では、スムーズかつ制御した状態で展開を進めることができます。

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