仮想化: クラウドにおける仮想化とクラウドを越えた仮想化

仮想化テクノロジはクラウド コンピューティング環境を推し進める原動力となっているかもしれませんが、それは多くのメリットの 1 つに過ぎません。

Joshua Hoffman

仮想化は、新しいものではありません。過去 10 年間で、仮想化のテクノロジと機能は着実に発展してきました。仮想化ソフトウェアの機能の向上、コンピューター ハードウェアの能力の向上、およびネットワーク帯域幅の可用性の向上の相乗効果により、仮想化の課題が克服されました。

その結果、クラウド コンピューティングに対する仮想化を中心とした動きが促進されました。現在、クラウド コンピューティングが、IT 業界に、大きな変革をもたらしていることは間違いありません。そのメリットはだれもが認めるもので、かなり大きなものです。ただし、クラウド コンピューティングに関するお決まりの会話により、私たちは、仮想化テクノロジがもたらす、他のメリットのいくつかを見失っている可能性があります。

仮想化は、コンピューティング インフラストラクチャの多数の側面で活用できます。パブリック クラウド コンピューティングには多数のメリットがありますが、自社のデータセンターやデスクトップでも仮想化のメリットを享受できる方法はあります。また、将来的には、仮想化の機能拡張が期待できます。これらの点により、さらなる時間、労力、およびコスト削減が実現できます。

クラウドのメリット

まず、クラウド コンピューティングの領域に頻繁に適用されている、仮想化の主なメリットについて簡単に確認しましょう。

インフラストラクチャ コストの削減: リソースをクラウドに移行すると (特に、ホスティング プロバイダーが共有または専用のハードウェアを提供するパブリック クラウド コンピューティングの場合)、設備投資にかかるコストを大幅に削減できます。

つまり、それほど多くのコンピューター ハードウェアを購入する必要がなく、オンプレミスで電力供給、管理、または保守を行う必要がありません。提供される処理能力と総コストを比較して考えると、仮想化では、共有リソースと順応性のあるスケーラビリティにより、コストを大幅に削減できます。これらのコスト削減は、特に経済的に厳しい状況では、予算における好材料となります。

順応性のあるスケーラビリティ: 容量計画や分析を実施する際には、"最悪の状況" を想定して IT インフラストラクチャを設計する場合が多く、予想される最悪の状況下で考えられる最大負荷を処理できるアーキテクチャを設計します。たとえば、年末の休暇シーズン中に発生するオンライン小売のトラフィックとトランザクションの負荷に対応できるように Web インフラストラクチャを設計する場合があります。ですが、年間を通じてその容量を提供するサーバーを維持管理する必要は本当にあるのでしょうか。

このような一時的なワークロードをクラウドに移行することで、仮想化による順応性のあるスケーラビリティのメリットを享受できます。必要なときに容量を追加することが可能で、必要がない場合には簡単に楽々と停止できます。大多数のクラウド ソリューション プロバイダーでは、従量課金制を採用しているため、クラウドをあまり使用しない期間のコストを削減することで、最終的な収益に大きなメリットももたらされます。

冗長性と信頼性: テクノロジ システムがユーザーのニーズを満たすようにする必要があります。それが皆さんの主要任務です。複雑なシステムは、いつか不安定になります。ハードウェアが故障したり、悪天候でネットワーク接続が切断されたり、データセンターが停止したりすると、問題が発生します。

仮想化では、このような課題に迅速に対応できる、さらなる柔軟性が提供されます。重要なビジネス システムが仮想化環境内で自己完結型になっているので、システムを複数の物理的な場所に簡単にレプリケートしたり、新しいハードウェアにいつでも移行したりすることができます。このように、障害点を取り除くことで信頼性が向上します。また、障害復旧計画に対する取り組みも強化されます。

データセンターのコスト削減

自社のデータセンターで管理および実行しなければならないワークロードもあるでしょう。データの占有を保持したい場合、カスタム ソリューションを実装したい場合、コストとメリットの分析により社内で保持することが推奨される場合など、社内でアプリケーションとサーバーを運用して管理し続ける正当な理由はあります。

さいわい、社内でアプリケーションやサーバーを管理しても、クラウドのメリットが必ずしも消えてなくなるわけではありません。社内のデータセンターでも、クラウドのようなアーキテクチャを導入することは可能です。この概念は、"プライベート クラウド" と呼ばれます。仮想化テクノロジとプライベート クラウドのアーキテクチャを活用して、インフラストラクチャへの投資から価値を最大限に引き出す方法は多数あります。

サーバーの統合: 最も基本的なレベルでは、仮想化により、2 台、4 台、6 台、またはそれ以上のサーバーが必要な場合に、1 台のサーバーを使用することができます。サーバーを統合するメリットは広範囲に及びます。まず何よりも、管理するハードウェアの数が減少します。また、ハードウェアの故障によってサービスが中断されるリスクが低減します。

故障のリスクがあるハードウェア コンポーネントが少なくなると同時に、少ないハードウェアを使用してサービスのより多くの部分をホストします。仮想ワークロードは、物理的なリソース間で簡単に移行できます。そのため、サービスの統合に関するリスクを相殺できます。

サーバーの統合は、見落とされがちな光熱費のコスト削減にも役立ちます。各プロセッサでは電力を消費し、周辺機器、デバイス、および冷却装置をサポートすることで、電力消費量が増加します。データセンターの物理的な CPU の数を減らすことで、光熱費のコストという直接的なコスト削減を実現できます。これは予算だけでなく、環境にも良いことです。

サーバー統合プロセスについて説明している多数のリソースがあります。たとえば、「仮想化を利用したサーバーの統合による電源消費量の削減方法」、「Hyper-V の計画および展開ガイド (英語)」、および「Hyper-V のクラウド アーキテクチャとサイズ変更ガイド (英語)」があります。

複雑さの緩和: 仮想化により、毎日管理しなければならないサーバーの台数が減少するだけでなく、少なくなったサーバーの管理も簡略化されます。サービスを一元管理することで、サーバーの運用状況をより簡単に管理して、可能な限り効率を高めるようにワークロードのバランスを取ることで、サーバーの最適な使用状況を実現できます。

System Center Virtual Machine Manager では、このような仮想ワークロードを管理するための強力なプラットフォームが提供されます。これを使用すると、仮想マシン (VM) テンプレートのライブラリを管理できます。また、迅速かつ突発的なスケーラビリティ (ワークロードが高いときに、容量を追加する)、ワークロードの分散、物理環境から仮想環境への移行、および関連するタスクの円滑化を促進します。

テストと開発: 仮想化テクノロジについて知られていない最もすばらしいメリットの 1 つは、テストと開発のサンドボックス環境を迅速に作成、削除、または再作成できることです。VM は自己完結型のファイルとして存在しているので、標準的なデスクトップとサーバーの構成テンプレートを簡単に作成できます。これにより、OS などのベース コンポーネントをインストールする時間を節約できます。

テンプレートは、新しいコンポーネントをテストするために必要なだけ追加することも、複数のバージョンを作成してさまざまな構成をテストしたりすることもできます。また、仮想化された構成 (仮想化されたコンピューターのハード ドライブを表す VHD ファイル) を共有することもできます。これにより、チーム全体のテスト プロセスが簡略化されます。

デスクトップの柔軟性の向上

仮想化の効果は、サーバー統合やデータセンターに限られるものではありません。職場の構造の変化によって、より多くのユーザーが移動するようになり、リモートで作業を行うようになります。その結果、アプリケーションと機能を提供する方法に柔軟性が求められるようになっています。仮想化テクノロジを使用して、このようなメリットを実現できる方法はいくつかあります。

ユーザー状態の仮想化: エンド ユーザーのコンピューターに格納されている重要なビジネス データには、リスクが付き物です。コンピューターの紛失、盗難、または損傷が発生すると、多くの場合、失われたデータと生産性の代償は、コンピューター自体の価値を大きく上回ります。

ただし、User State Virtualization (USV) テクノロジ (移動プロファイルやフォルダー リダイレクトなど) では、すべてのユーザー データを集中管理されたサーバーに安全に格納し、定期的にバックアップを作成して保護できます。

また、USV は、ユーザーがネットワークに接続している任意のワークステーションからデータにアクセスできるという利便性も提供します。ユーザーの個人設定やデータも、すべての新しいコンピューターや新しい場所でシームレスに使用できます。

アプリケーションの仮想化: 基幹業務アプリケーションの展開、管理、および保守は、クライアント コンピューターに関するタスクの中で最もコストと時間がかかるものの 1 つになることがあります。ただし、Microsoft Application Virtualization (App-V) を使用すると、アプリケーションも仮想化できます。

App-V は、集中管理および合理化された方法で、アプリケーションをパッケージ化、展開、および管理するのに役立ちます。App-V を使用すると、ユーザーは、どの承認されたデバイスからでも、すべての承認されたアプリケーションにアクセスできます。USV と組み合わせて使用することで、App-V は、シームレスなエンド ユーザー エクスペリエンスを提供すると同時に、ソフトウェア管理とライセンスに関する作業の合理化を図ることができます。

OS の仮想化: サーバー環境全体を仮想化できるように、完全なデスクトップ コンピューター エクスペリエンスを提供することもできます。仮想デスクトップ インフラストラクチャ (VDI) とリモート デスクトップ サービスのセッションの仮想化を使用すると、ユーザーは、自分のアプリケーションとデータが設定された、個人用にカスタマイズされたオンデマンドのデスクトップ コンピューティング環境に、どこからでもアクセスできます。

Windows Server 2008 R2 SP1 で導入された RemoteFX を追加すると、VDI では、物理環境と同じエクスペリエンスが提供されます。RemoteFX では、3D 仮想アダプター、インテリジェント コーデック、および VM で USB デバイスをリダイレクトする機能が提供されます。また、Microsoft Enterprise Desktop Virtualization (MED-V) のようなソリューションもあります。MED-V は、仮想化テクノロジを使用して、デスクトップにおけるアプリケーション互換性の問題を緩和し、OS アップグレードの障害を取り除くのに役立ちます。

仮想化テクノロジのメリットは増え続けており、パブリック クラウドに限られたものではないことは確かです。インフラストラクチャ (パブリック クラウドからデータセンターやデスクトップに至るまで) で仮想化ソリューションを活用することで、時間とコストの両方を節約できます。また、柔軟性と機敏性も向上します。

Joshua Hoffman

Joshua Hoffman は、TechNet マガジンの前の編集長です。現在は、ニューヨークで、マイクロソフトの Windows クライアント テクノロジのスペシャリストとして活躍しています。

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