クラウド コンピューティング: 次世代のクラウド ソリューションを構築する

特殊なニーズを満たす洗練されたクラウド ソリューションを構築する作業は、柔軟性に欠けるワークフローによって複雑になりがちです。

Niten Malik

昨今、組織 (特に財政事情の厳しい政府機関) には、複雑なシステムの構築や管理に何百万ドルも投資したり何十年もの時間をかけたりする余裕はありません。政府機関のワークフローは複雑で、多くの場合は特殊です。また、一般的に国家の安全、プライバシー、または予算に関する制約のバランス、法律の改定、顧客サービスのレベルなど、相反する複数の目標を達成する必要があります。

通常、このような要件を満たすように開発されたシステムは、管理しづらく、変更には高いコストがかかります。また、テクノロジの革新に遅れをとらないようにワークフローを向上するのにもコストがかかります。基盤となる開発プラットフォームが古い場合や開発プラットフォームで大規模なカスタマイズが必要な場合に、この傾向は特に強くなります。複雑な政府機関システムの開発で一般的な戦略は、カスタム コードを作成するか、エンタープライズ リソース プランニング (ERP) システムなど従来のワークフロー管理ツールを変更することです。

しかし、厳密に定義された組み込みのワークフローに合わせて政府機関のワークフローを調整するには、コストや時間がかかることは実証済みです。多くの場合、営利企業向けに構築されたプロセス フローを政府機関の特殊なワークフローで採用するのは大きな課題です。また、柔軟性の欠如により、政府機関の特殊な業務要件に適合していないプロセスをコスト効率よく変更することは困難です。これはいら立ちの原因となり、技術革新の妨げとなります。プロセスの再設計や最適化を行う機会はなく、あったとしても、ごくわずかです。

特定の法規制や国民のニーズに合わせて作成された政府機関の業務上のルールによって、特殊な問題が生じます。このような業務上のルールに対応するには、民間組織、連邦政府機関、州政府機関、および地方自治体にまで拡張できる、信頼性が高くて効率的なデータ共有インフラストラクチャとコラボレーション インフラストラクチャが必要です。このような多様な環境では、特に独自のプロセスをカスタマイズする必要がある場合、従来のワークフロー管理ツールの費用対効果はあっという間に小さくなります。

プロセスの柔軟性の欠如を補い、システムの機能を政府機関の業務要件に適合させるため、多くの場合、政府機関ではカスタム コードを使用しています。しかし、カスタム コードの作成と管理には高いコストがかかります。複雑なシステムの開発に従事するプログラマーは、何百万行ものコードを記述します。このようなシステムで変更が必要な場合、更新には高いコストと多くの時間を要します。適用方法、不十分なドキュメント、およびコードの内容を唯一理解しているプログラマーへの依存により、その難易度はさらに高くなります。また、ソフトウェアのリリース スケジュール、回帰テスト、および変更管理プロセスも技術革新の速度を低下させる要因となります。結局、応答性の高いテクノロジ アーキテクチャを作成できても、理解しにくいものになります。

既製品を使用する

ほとんどの政府機関システムが抱えている最大の課題は、複雑なシステムにおいて業務上の変化に対する応答性を向上しながら、コストを削減することです。効果的なソリューションの開発戦略では、カスタム コードと併せて組み込みのワークフローを使用することも必要になります。そのため、カスタム開発は、システムの特殊な機能に限定されます。

次世代の開発プラットフォームでは、広く普及したプログラミング言語で特殊な業務要件のコードを記述できるようにする必要があります。このようなプラットフォームには、包括的で充実した既定の機能と構成可能な機能が用意されている必要があります。ゼロから作成しなければならない必須機能のカスタム コードが少なくなるため、従来のカスタム コードの開発と比較して開発コストを 50 ~ 70% 削減できます。

データを確実に収集して管理するには、政府機関システムは、すべての関係者にとって直感的で使用しやすいものでなければなりません。それには、情報の入力や取得、最新情報の表示、国民とプログラム担当者の連携に必要な手順を少なくする必要があります。

関連情報は最新で、スマートフォンから iPad に至るまで、さまざまなデバイスでアクセスできる必要があります。また、システムは、ユーザーが確実かつ効率的にプロセスを進められるように設計する必要があります。自動アラートを採用して意思決定や操作を補助し、高度なデータの仮想化と分析を実現することも 1 つの方法です。

また、データは、ユーザーが情報を使用する目的に適した形でさまざまなユーザー グループにレンダリングする必要もあります。たとえば、学生はスマートフォンで融資の申し込み状態を閲覧する必要がありますが、税関国境警備局 (CBP) の職員は、入力ソフトウェアの CBP ポートで最新の非移民状況を確認する必要があります。

ルール エンジンでは、業務上のルールにすばやくかつコスト効率よく変更を適用できる必要があり、その結果、変更ガバナンス プロセスの簡略化と高速で応答性の高いワークフローを実現できることが必要です。プログラムのデータは増大し、継続されている主要ミッションでは、タイムリーなデータ共有と他機関との分析に依存するようになります。テクノロジを使用すると、技術革新と組織間の情報共有の文化を促進するシステムやプロセスを、簡単に構成できるようになります。このことから、ほとんどの政府機関システムでは、堅ろうで使いやすいデータ交換プラットフォームとデータ分析プラットフォームが必要になります。

あらゆるワークフローの信頼性や応答性は、政府と国民の間のリアルタイム (またはほぼリアルタイム) の連携に左右されます。基本的に、こうしたシステムは、組織改革や効率的な運用を促進する協調的な業務運営を可能にするためのコミュニケーション プラットフォームです。

信頼性と復元性を向上する

次世代の政府機関向けソリューションも、コストを最適化してミッションの信頼性を向上するためにクラウドで運用することになるでしょう。さまざまな業務上のニーズがあるため、1 つのクラウド戦略をすべてのプログラムに当てはめることはできません。パブリック クラウドや政府機関向けクラウドに配置できないアプリケーションもあれば、特定のクラウドの機能しか利用しないアプリケーションもあります。

開発プラットフォームは、各プログラムの特殊なセキュリティ要件と運用要件を考慮した複数のクラウド対応の開発モデルとサービス提供モデルを提供できる汎用性を備えている必要があります。また、IT 資産の共有とマルチテナント型ソリューションの作成を促進する必要もあります。さらに、要件やテクノロジの進化に合わせて、複数種類のホスト インフラストラクチャとクラウド インフラストラクチャ (プライベート クラウドや政府機関向けコミュニティ クラウドなど) にソリューションを配置する柔軟性も備えている必要があります。

コストの優位性

ソリューション開発のビジネス ケースは、コストの削減とミッションの向上に左右されます。Dynamics CRM や SharePoint を使用すると、同じフレームワーク上に複数の業務アプリケーションを構築できます。反復的で段階的な開発が可能になるため、より短期間でアプリケーションを配置できるようになります。時間の経過と共に、カスタム アプリケーションの拡張性は失われます。アプリケーション開発プラットフォームである Dynamics CRM には、アプリケーションを拡張するための信頼性の高いフレームワークが用意されています。

一部の特殊な業務要件に対応するためにカスタム コードを記述する必要性を完全に回避することはできません。ERP システムなど、多くの従来のワークフロー管理ツールでは、業務要件に合わせてカスタマイズできることが謳われていました。通常、このようなカスタマイズでは、開発者が独自の言語または一般的でない言語に関して高いスキルを持っていることが条件になります。この 10 年間で、従来のワークフローをカスタマイズすることで複雑な政府機関向けの機能を実装するには、高いコストと多くの時間がかかることが実証されました。

Dynamics CRM の構成可能な機能は、政府機関固有の業務ロジック (特殊な検証規則やワークフローなど) に合わせて拡張できるように設計されています。Microsoft .NET Framework では、これらの機能のカスタム コードを作成できます。また、こうした機能は、構成済みの .NET Framework コントロールのライブラリからも入手できます。その場合、コンポーネントの関数呼び出しによって、ゼロから記述する必要のあるコードがさらに少なくなります。

Dynamics CRM と SharePoint の開発プラットフォームには、セキュリティ、データ アクセス、ワークフロー、およびプレゼンテーションのロジックなど、組み込みのアーキテクチャ コンポーネントが用意されています。このようなコンポーネントにより、コンポーネントをゼロから構築するコストを削減できます。

アプリケーションで提供できる新機能は、開発フレームワーク自体の更新頻度に左右されます。マイクロソフトは、業界トップ レベルのソリューション開発フレームワークとして Dynamics CRM と SharePoint の地位を維持するため、調査と開発に多額の投資を継続的に行っています。

継続的な技術革新

次のソフトウェアのリリース サイクル (通常は 3 ~ 6 か月後) まで待たなければならないことよりも、確実に技術革新が減速する要因となっていることがいくつかあります。技術革新は、ユーザー中心の組織において、反復的かつ持続的に行われる必要があります。インターフェイスの変更や業務ロジックの更新は、何週間や何か月もの時間をかけるのではなく、数時間から数日で完了できる必要があります。

Dynamics CRM により、技術革新とアジリティの風土を育むことができます。従業員の能力が促進され、プロセスを最適化してチームとして連携することが可能になります。これは、顧客サービスやミッションの信頼性のレベルが向上するだけでなく、従業員のモチベーション向上にも有効です。

マイクロソフトは、マイクロソフトの開発者が社内で使用しているのと同じフレームワークと Web サービス SDK を提供しています。つまり、Dynamics CRM は、実質的にすべての層で無限に変更して拡張することが可能で、CRM に関するマイクロソフトのビジョンに制限されているわけではありません。

マイクロソフトのビジネス インテリジェンス (BI) 戦略は、強力な分析機能は、広く普及していてなじみのあるコラボレーション ツールで機能し、内外のビジネス インテリジェンスを共有できる必要があることを基本前提としています。この前提により、意思決定に関与する複数のプログラムで、データ分析を広く使用することが促進されます。

Excel など、なじみのあるツールを使用してセルフサービス型の分析および何百万行ものデータを分析できることは、これまでの概念を根本から覆すものです。SharePoint と Dynamics CRM は、Microsoft SQL Server をベースに構築されています。SQL Server 2012 の Power View では、ユーザーは、データのパターンや傾向を視覚化するドリルダウン機能を使用してリアルタイムの分析ダッシュボードを作成して共有できます。

ビッグ データを処理する

調査会社の IDC は、利用可能なデータの量が 2 年ごとに 2 倍以上のペースで増加していると推定しています。プログラムの復元性を向上するには、ビッグ データを利用する必要があります。ビッグ データを使用すると、データに対する見識を深めて、リスクとチャンスに事前に対応することで、より質の高い意思決定を行えます。そのデータの価値を最大限に高めるには、組織では、情報の規模と多様性に対応する一貫性のあるデータ プラットフォームが 1 つ必要です。

外部ソースからデータを取得し、そのデータを内部データベースに関連付けることで、実用的な BI が実現します。政府機関や政府機関向けプログラムでは、ミッションに影響を与える外部要因を体系的に可視化する必要があります。プログラムのミッションに対して脅威となるものは、静的ではありません。予測分析では、内部データと外部データに関する傾向や異常を体系的に特定し、アルゴリズムを使って関連がないように見えるイベントの点を結び、新しい問題を検出します。優先順位を決めて、初期段階で検出されたリスクに対処すると、プログラムのミッションの復元性を高めることができます。

コンテキスト情報を見つけたり、イベントやソーシャル データの関連性を政府機関のミッションに取り入れたりするには、大量の構造化されたデータ、半構造化されたデータ、および構造化されていないデータを分析する必要があります。また、データは、複数の形式と多数のソース (ドキュメント、Web サイト、ソーシャル ネットワーク、モバイル チャネル、画像、ビデオ、内部ファイル ネットワーク、センサー、データセンター、他の機関、リレーショナル データベースなど) から選別できる必要があります。データ量は、簡単に PB (ペタバイト、1,000 兆バイト) のレベルに達します。

ビッグ データを分析するためにオンプレミスのインフラストラクチャを作成して管理するには、コストがかかります。Windows Azure の Big Data as a Service (BDaaS) は、低コストで Hadoop プラットフォームを実装する 1 つの方法です。Hadoop は、分散環境でビッグ データのワークロードを分析するオープン ソース プラットフォームで、Windows Server でも Windows Azure のサービスとしても利用できます。Bing Maps、SQL Server、SharePoint など、その他の Windows Azure プラットフォーム ツールも強力なデータ集計とデータ分析のツールです。

SQL Server には、SQL Server Connector for Apache Hadoop を利用して、SQL Server と Hadoop の間でデータを転送する強力な機能が用意されています。この機能によって、Hadoop からリレーショナル データベースにデータを移動することが促進され、リレーショナル データベースに移動されたデータは Dynamics CRM と SharePoint 上で構築された基幹業務アプリケーションで利用されます。ユーザーは、最も使い慣れている分析ツールを使用することが可能で、Hadoop にある大量のデータ セットを分析するのに特別なスキルは必要ありません。意思決定においては、ユーザーがデータにアクセスできることが非常に重要です。

公的機関と組織の顧客とのリアルタイムのコラボレーションを実現するソリューションにより、応答性の高いプログラムを提供し、顧客との充実した影響力の強い関係を継続的に築くことができます。コンテキスト データに基づいて考察できる実用的な分析と並行して、信頼性が高く堅ろうな情報交換を他部門や他機関と行うことで、ミッションの信頼性が向上します。

来月は、モビリティ、セキュリティ、相互運用性といった具体的な側面において、Dynamics CRM と SharePoint を基盤とする安定した開発プラットフォームにより、どのように柔軟性やスケーラビリティがもたらされるかを説明します。

Niten Malik

Niten Malik は、Software as a Service ソリューションの作成に従事しています。彼は、長年にわたり、ビジネス ケースの作成とクラウド ベースのマルチテナント型ソリューションに対応した運用モデルの構築を専門としてきました。最近では、Accenture Public Service 運用グループのためにクラウド コンピューティングの戦略と機能を策定するプロジェクトの指揮を取りました。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院で MBA を取得しています。

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