何でも屋: フォールト トレラントな Hyper-V 記憶域

ある程度のレベルのフォールト トレラントな記憶域を作成する場合は、Windows Server 2012 のスケールアウト ファイル サーバーとサーバー メッセージ ブロックを活用できます。

Greg Shields

"マイクロソフト" と "ストレージ" という言葉を同時に使うと、多くのベテランの IT 担当者は、ただくすくす笑うかもしれません。"フォールト トレラント" という言葉を付け加えたら、おそらく大爆笑でしょう。ご存じのとおり、以前、"マイクロソフト" と "ストレージ" という言葉は、まったく良好な関係にありませんでした。ほとんどの IT 担当者は、予期せずクラッシュした Windows のボリュームやスムーズに稼動していたサーバーでベーシック ディスクをダイナミック ディスクに変換した瞬間におかしくなるという状況に苛立ちを覚えたことがあるでしょう。

そして今このコラムを読みながら、Hyper-V VM のフォールト トレランスをソフトウェアで実現するだなんて、頭がおかしくなったに違いないと思っているでしょう。過去数年間、これらの概念は、まったく結び付きませんでした。さいわい、時代は変わり、OS ベンダーも変わります。今日の Windows Server 2012 に備っているストレージ アーキテクチャを見ると、マイクロソフトは、仮想化用のストレージを販売するベンダーに喧嘩を売っているのかと疑うかもしれません。

このすべての興奮の中心には、フォールト トレラントな Hyper-V VM に相当する代替機能を連動して提供するサーバー メッセージ ブロック (SMB) 3.0 とスケールアウト ファイル サーバー (SOFS) という 2 つのテクノロジがあります。SMB 3.0 への大幅な投資により、かつて汚名を被ったプロトコルが、すばらしいスケーラビリティとネイティブに近いパフォーマンスを兼ね備えたプロトコルへと昇華されています。SOFS のリリースにより、Hyper-V サーバーを VM に接続する方法が大幅に簡略化されます。個人的な好みかもしれませんが、SOFS を使うと、あらゆる VM を簡単に接続できます。

SAN を購入して、NAS を望む

SAN は、長い間、仮想化記憶域の賢い選択肢として君臨しています。SAN の共有記憶域の構造は、VM ライブ マイグレーションの要件になっています。しかし、VM のライブ マイグレーションの促進における SAN の最大の強みは、SAN の最大のハードルにもなっています。SAN では、記憶域の接続に、iSCSI やファイバー チャネルのような低レベルのプロトコルが使用されます。これらのプロトコルの複雑さに慣れれば、高い柔軟性が得られますが、これらのプロトコルの複雑さは、慣れるまで管理上の問題になり兼ねません。

今までに、iSCSI SAN への複数のマルチパス I/O (MPIO) 接続または複数のホスト バス アダプター (HBA) を含むファイバー チャネル接続の設定に対応したことがあれば、このつらさがよくわかるでしょう (図 1 参照)。各接続は注意深く構成する必要があり、各サーバーでは、冗長性を確保するために複数の接続が必要になります。自動化は最小限で、間違いは簡単に起こります。これらの手順を多数の Hyper-V ホストで繰り返し実行すると、記憶域のネットワークは、あっという間にパリの街路地図のように複雑なものになります。

多くの複雑な接続を必要とする SAN の直接接続

図 1 多くの複雑な接続を必要とする SAN の直接接続

Windows Server 2012 の SOFS を使うと、くもの巣のような Hyper-V サーバーと記憶域の接続の管理が大幅に簡略化されます (図 2 参照)。SMB 3.0 のパフォーマンスとスケーラビリティの向上の相乗効果により、Hyper-V サーバーと記憶域の相互接続の管理の大半が不要になります。

SOFS 環境で Hyper-V VM へのアクセスに必要なのは、\\<サーバー>\<共有>\<フォルダー>\vm.vhdx という UNC パスだけです。SMB 3.0 により、他のすべてのもの (冗長性、負荷分散、フェールオーバー、フォールト トレランス ネットワークの目標にかかわるすべてのもの) は自動的に処理されます。さらに SOFS クラスター自体は事実上アクティブ/アクティブ構成になっています。つまり、Hyper-V VM の記憶域のニーズに対応するために、購入したサーバーは、すべて有効に使用されます。

記憶域が SAN により統合されるように、スケールアウト ファイル サーバーにより SAN 接続が統合される

図 2 記憶域が SAN により統合されるように、スケールアウト ファイル サーバーにより SAN 接続が統合される

このアーキテクチャにより、フォールト トレラントな記憶域が定義されます。このような目標を達成するうえで、このアーキテクチャは SAN よりも NAS のように見えます。SAN 環境が社内で使用できる可能性が高いと仮定すると、心配する必要があるのは、Hyper-V ホストでの適切な記憶域 NIC チーミングだけです。これは、よりシンプルで、簡単で、望ましい状態です。

マイクロソフトは「スケールアウト ファイル サーバーの展開」というドキュメントを公開しています。スケールアウト ファイル サーバーの展開では、ファイル サーバーの役割とフェールオーバー クラスタリング機能のインストール、クラスターの作成、クラスターの共有ボリューム (CSV) の作成が必要になります。

Hyper-V 記憶域の代替

SAN は Hyper-V 記憶域に最適であるかもしれませんが、何でも屋である IT 担当者全員が、データセンターに SAN を配置することをよく思っているわけではありません。Hyper-V 環境におけるダウンタイムの問題は、物理的な環境ほどミッション クリティカルではない、または限られた予算で創造的な Hyper-V の管理を行うことが求められていると主張する方もいらっしゃるでしょう。どちらの場合も、Windows Server 2012 には、IT 担当者のニーズに応えられる 2 つの Hyper-V 記憶域の代替機能があります。

1 つ目の Hyper-V 記憶域の代替機能では、SMB 3.0 の機能を利用します。SMB 3.0 には、SOFS の高可用性の機能がありません。Windows Server 2012 インスタンスにファイル サーバーの役割をインストールするだけで、ダイレクト アタッチト ストレージ (DAS) と連動するアプリケーション用の SMB 共有を作成できます (図 3 参照)。この特殊なファイル共有では、SMB 3.0 により Hyper-V VM に提供する必要があるパフォーマンス上のメリットを享受できますが、負荷分散、フェールオーバー、および他の SOFS オプションは利用できません。ご使用の環境と予算の観点から、時折のダウンタイムを許容できる場合は、SMB 共有で VM を実行すると、高価な SAN を使用することなく、すべての UNC パスを単純にできます。

SMB 共有 - アプリケーション プロファイル

図 3 SMB 共有 - アプリケーション プロファイル

2 つ目の Hyper-V 記憶域の代替機能については、その機能が誕生したときに、多くの混乱を招きました。記憶域スペースは、Windows Server 2012 と Windows 8 の新機能です。この機能は、DAS で SAN のようなエクスペリエンスを提供することを目的としています。賛否両論ある前身のダイナミック ディスク同様、記憶域スペースを使うと、ソフトウェア RAID を使用してコモディティ ディスクで高可用性を実現できます。また、個々のディスク障害から保護するために、双方向ミラー、3 方向ミラー、およびパリティのオプションが用意されています。

表面上の価値では、記憶域スペース自体は、それほど画期的なテクノロジではありません。基本的には、複数の記憶装置のディスク領域をプールするツールです。複数台の Windows Server の記憶域スペースを一度に接続するときに混乱が生じます。このアーキテクチャは、クラスター化された記憶域スペースと見なされます。ご想像のとおり、クラスター化された記憶域スペースとは、記憶域スペースとフェールオーバー クラスタリングが交わっている部分です。

クラスター化された記憶域スペースは、(マイクロソフトの定義によると) "サーバーの小さな集合体...、および共有 SAS (Secure Attention Sequence) JBOD 格納装置のセット" として存在します。この構成では、サーバーは、SAS 接続で、1 台以上の JBOD (単なるディスクの束) 格納装置に接続されています (図 4 参照)。記憶域スペース自体がホスト間のアクセスを仲介することで、どちらのホストからも、格納装置内のディスクに平等にアクセスできます。

SAS JBOD 格納装置に接続されている 2 台のサーバー

図 4 SAS JBOD 格納装置に接続されている 2 台のサーバー

この SAN には及ばないが、SAN に遠く及ばないわけでもないアプローチの効率については、まだ結論が出ていません。現時点では、記憶域スペースに必要な認定済みの SAS JBOD 格納装置を提供しているベンダーは DataON Storage の 1 社だけであるようです。

SOFS に道をふさがれる

この場合、道をふさがれるというのは、おそらく良い意味です。1 年以上前に、私が初めて SOFS に触れたとき、「一体だれがこのようなものを買うのだろうか」という疑問が口をついて出てきました。既に複雑なデータセンター環境に、さらにレイヤーを 1 つ追加するメリットを見いだすのは困難でした。

とは言うものの、SOFS に費やす時間に比例して、SOFS への称賛は高まりました。SOFS は、Hyper-V の管理者が VM の実行を維持することに集中できるようにしながら、そのときに行っている作業で最善の結果を出すのに役立ちます。SMB 3.0 併用すると、SOFS は、仲介役の役割を担います。SOFS を使用すると、Hyper-V VM に、伝統的な SAN とほぼ同等のパフォーマンスと NAS のようなエクスペリエンスをもたらすことができます。

Greg Shields

Greg Shields (MVP) は、Concentrated Technology の共同経営者です。何でも屋である IT 担当者向けのヒントとテクニックについては、ConcentratedTech.com (英語) を参照してください。

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