Lync Server 2013: エンタープライズ ボイスの重要性

Lync Server 2013 のエンタープライズ ボイスは、管理者向けとユーザー向けの両方の機能が強化されています。

Alan Maddison

エンタープライズ ボイスは、Lync が統合されたコミュニケーション プラットフォームの一部として、強固なエンタープライズ クラスのボイス オーバー IP (VoIP) ソリューションとしての機能を果たしてきました。Lync Server 2010 では、ボイス機能が大幅に更新されましたが、Lync Server 2013 では、さらに大幅な変更が施されました。Lync 2013 では、エンタープライズ ボイスに加えて、M: N トランク ルーティング、セッションの管理、着信の転送と同時呼び出し (サイマルリング) の承認、呼び出し元の番号変換などの新しい機能が追加されています。

M: N トランク ルーティング

M: N トランク ルーティングとセッションの管理は Lync 2013 で導入された機能の中で最も重要なものです。これらの変更を推進するために Lync ではトランクの定義が変更されました。Lync 2010 以前では、ゲートウェイが PBX と公衆交換電話網 (PSTN) のどちらであるかに関係なく、トランクは、単純にゲートウェイと PBX/PSTN 間の接続を意味していました。トランク上では、正規化ルールを適用することで呼び出し先の番号変換など、特定の要素を操作することができました。

ただし、Lync 2013 では、トランクは "タプル (組)" として定義されています。トランクは、ゲートウェイの FQDN (完全修飾ドメイン名、または IP アドレス) とポート番号および仲介サーバーの FQDN とポートの組み合わせを意味します。そのため、複数の仲介サーバーとゲートウェイの間で多対多 (M: N) の関係を構築できるようになりました。

具体的には、M: N のトランク ルーティングの関係により、複数のゲートウェイを同じ 1 台の仲介サーバー プールに関連付けたり、ゲートウェイを複数の仲介サーバー プールに関連付けたりすることができます。また、複数の一意の関連付けによって、複数のゲートウェイを同じ 1 台の仲介サーバー プールに関連付けることもできます。

この変更は Lync 2013 内の 2 つの場所で顕著に現れています。1 つはトポロジ ビルダーです。トポロジ ビルダーには、"トランク" という名前のコンテナが表示されるようになりました。ゲートウェイを定義するときには、ゲートウェイをトランクと関連付ける必要があります。もう 1 つは、音声ルートを操作しているときです。Lync 2013 では、ルートがトランクと関連付けられるようになりました (Lync 2010 では、ルートはゲートウェイと関連付けられていました)。

この多対多の関係は、Office Communication Server 2007 R2 の一対一の関係や Lync 2010 の一対多 (1: N) の関係からの大きな進歩です。ただし、この新機能には、Lync 音声ルーティング トポロジの設計に関わる潜在的に大きな意義があることを覚えておいてください。

たとえば、Lync 環境で、真の網目状のトポロジを構成できるようになりました。すべての Lync 仲介サーバーは、すべてのゲートウェイに接続しています。Lync 2010 では仮想ゲートウェイの概念がサポートされていましたが、この新しいアプローチにより、さらに柔軟性が高くなり、多数のサイトを持っている組織では、トポロジや管理が簡略化されます。

この新しいトランクの利点が最も効果を発揮している例は、複数の仲介サーバー (プール) を一元管理された 1 つのセッション開始プロトコル (SIP) トランクに直接接続できるようになったことです。この 1 つの変更だけで、単一障害点となる単一の仲介サーバーまたはプールを取り除くことができるため、回復性が大幅に向上します。

Lync 2010 では、SIP トランクのセッション ボーダー コントローラー (SBC) は単一の仲介サーバーまたはプールと関連付けられており、仲介サーバーやプールで問題が発生すると、音声ルートがダウンしていました。Lync 2013 では、すべての仲介サーバーが SBC と直接ルーティング関係を構築できるため、このような問題が発生することはありません。

セッションの管理

多くの場合、統合コミュニケーションの世界では、セッションの管理は、1 つの一元化されたダイアル プランで複数のエンドポイントとシステムの接続 (PBX 接続や PSTN 接続など) を統合および集約できる能力として定義されます。Lync 2013 のボイスの機能強化には、いくつかの歓迎すべき基本的なセッションの管理機能があります。

これらの新しいセッションの管理機能によって Lync の管理機能とルーティング機能が拡張され、より広範な通信環境に対応できるようになります。従来の PBX を交換するために Lync を導入する組織が増えるにつれて、PBX の使用を終了するまでの PBX と Lync の共存期間において、これらのセッションの管理機能は不可欠となるでしょう。

このセッションの管理機能は、タプルとしてのトランクの概念によって可能になっています。トランクの定義を変更して Lync 2013 のルーティング機能を強化したことで、トランク間のルーティング機能を実装したり、Lync を使用して通信インフラストラクチャ全体に対応する一元化されたダイアル プランを提供できるようになりました。

各トランクは一意で、既存の Lync の全ルーティング機能を管理できるため、トランクに割り当てる PSTN の用途とボイス ルートを管理できます。また、トランクで発生するあらゆる正規化や番号操作を管理することもできます。

ルーティングの観点では、トランク間のルーティングは、Lync 経由の IP-PBX システムへの着信 PSTN 通話、Lync 経由の PSTN ネットワークへの発信 IP-PBX 通話、Lync 経由の他の IP-PBX システムへの発信 IP-PBX 通話などの追加ルートを提供します。さらに、すべてのトランク間のルーティングでのメディア バイパスをサポートします。

着信の転送と同時呼び出しの承認

着信の転送と同時呼び出しの承認は、ほとんどの Lync の展開で一般的に使われる機能ですが、以前のバージョンの Lync では呼び出しの承認の精度が低かったため、特に大規模な組織では、いくつかの問題がありました。さいわい、Lync Server 2013 には、これらの問題に対応するために着信の転送と同時呼び出しに関する幅広い構成オプションが用意されています。

どのユーザーが通話を転送して、他のデバイスに対して同時呼び出しを行えるかを決められるだけでなく、ボイス ポリシーを使用して通話をルーティングする方法を管理することもできます。ボイス ポリシーには、通話の用途に基づいた 3 つの新しいオプションが関連付けられています。これらのオプションでは、内部 Lync 番号に通話をルーティングしますが、カスタマイズした用途に基づいてルーティングすることもできます。

Enhanced 911 (E911): 緊急時の連絡先として配布グループを指定できるようになりました。セキュリティ担当者がいる組織にとって、これは歓迎すべき変更です。また、場所ポリシーに基づいて免責事項をカスタマイズすることもできます。さらに、指定した間隔 (時間単位) でクライアントが場所情報を更新するように強制できます (Lync 2010 では、この間隔は 4 時間に固定されていました)。

呼び出し元の番号変換: Lync 2010 では、トランクの構成で、発信変換ルールを使用してダイヤルされた番号の形式を変更し、ゲートウェイで必要な形式の番号になるようにすることができました。ただし、発信者の番号について、同じ処理を行うことはできませんでした。Lync 2013 では、発信者の番号を変換するオプションも利用できるようになりました。

ハイブリッド型ボイス展開: ハイブリッド型展開を使用すると、リモート ユーザーは Lync Online を使用して、社内から接続しているユーザーのようにオンプレミスのエンタープライズ ボイス インフラストラクチャを利用できます。これを使用すると、Office 365 ユーザーは、オンプレミスのゲートウェイ経由で通話の発信または着信を行えます。このトポロジでは、メディア バイパス、E911、およびコール パークもサポートしています。Lync Online ユーザーとゲートウェイが同じネットワーク上の場所にある場合は、メディア バイパスを使用できます。Lync Online ユーザーの E911 は、オンプレミスの Lync ユーザーの E911 と同じように動作します。場所情報はクライアントによって自動的に取得され、緊急通話時に転送されます。

図 1図 2 に各トポロジでサポートされている機能を示します。

図 1 すべてのバージョンの Lync で基本的なテレフォニー機能の大半が提供されている

Lync の機能 OCS 2007R2 オンプレミスの Lync 2010 Lync Online ホスト型ボイス Lync Online ハイブリッド型ボイス
通話の保留/取得
通話の転送
着信の転送
ボイス メール
USB 周辺機器
外部音声 - モバイル
委任、チーム呼び出し
PBX との統合 X
リモート通話コントロール X X

図 2 より高度な機能の一部は、最近のバージョンの Lync にしかない

Lync の機能 OCS 2007R2 オンプレミスの Lync 2010 Lync Online ホスト型ボイス Lync Online ハイブリッド型ボイス
プライベート番号 N/A X
ボイス復元 N/A X X
Enhanced 911 N/A X
統合コミュニケーション デバイス
応答グループ サービス/Call Park Service X
アナログ デバイス、共有エリアの電話 X
オンプレミスのコール センター ソリューションとの統合 X X
メディア バイパス X N/A

 

ユーザー エクスペリエンスの強化

エンタープライズ ボイスに追加された多くの変更によって展開と運用の機能が向上しましたが、歓迎すべきユーザー エクスペリエンスに関する変更もいくつかあります。

ボイス メール エスケープ: 同時呼び出しには多くの利点がありますが、代替デバイスへの呼び出しを行う際に、外部のボイス メール システムが呼び出しに応答する可能性があります。このようなことが起こらないようにするため、Lync 2013 では、タイマーを構成できます。所定の時間内に呼び出しに応答しなかった場合、Lync 2013 では、ボイス メールが呼び出しに応答したと判断して、呼び出しを切断できます。他の登録されたエンド ポイントで呼び出しが継続されるので、ユーザーが呼び出しに応答したり、Exchange ユニファイド メッセージング サーバーに呼び出しをルーティングして会社のボイス メールを送信したりすることができます。

マネージャーと委任の強化: 代理人がマネージャーの着信通話を柔軟に処理できるようになりました。Lync 2013 では、代理人は、同時呼び出しで構成した任意の番号でマネージャーの着信通話を受け取れます。

会議ダイヤルアウトの改良: 以前のバージョンの Lync を使用すると、会議の参加者は、エンタープライズ ボイスを利用できるかどうかにかかわらず、オーディオ会議サーバーからコールバックを受けることができました。Lync 2013 では、エンタープライズ ボイスを利用できないユーザーは、会議からダイヤル アウトを開始できるようになり、さらに使いやすくなります。会議の開催者が、この電話会議ポリシー設定を使用すると、参加者は PSTN 経由で会議に音声のみで参加できます。

応答グループの管理者ロール: Lync 2013 で応答グループの管理者ロールが再開されました。このロールをユーザーに割り当てると、ユーザーは、ワークフロー、キュー、グループなど、応答グループのすべてのプロパティを変更できるようになります。この機能により、ユーザーは、担当する応答グループを管理して作業を簡略化できます。

エンタープライズ ボイスは、リリースごとに進化し続ける Lync の主要な機能です。多くの組織ではエンタープライズ ボイスを展開しているため Lync Server 2013 の強化された機能の恩恵を受けることができますが、Lync 展開においてこの最後の手順を実行していない組織も同様に多くあります。すべての Lync 展開には、強固なエンタープライズ クラスの VoIP ソリューションであるエンタープライズ ボイスの展開を含めることをお勧めします。

Alan Maddison

Alan Maddison は IT 業界で 18 年の経験があるベテランで、主にマイクロソフト テクノロジを専門として取り組んできました。ここ 7 年間は、専門的なサービスの提供に重点を置くコンサルタントとして活躍しています。現在は Microsoft Consulting Services でシニア コンサルタントを務めています。

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